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インバウンドセミナー

After コロナ インバウンド復活のヒント

Afterコロナへのヒント② 
「中国製ブランド(国貨)」支持率急上昇の背景
2021年今旬の中国・台湾女性のトレンド意識と購買パターンを分析する

Reflections General Office 株式会社 代表取締役
柳瀬 真弓 氏

中国デジタル市場の今 ネットショッピングの利用率は80%

 弊社は2006年に中国の北京と上海に進出し、現地女性と直接コンタクトを取るPRマーケティングとイベントプロデュースを多数手がけてきた。現地メディアとの深く幅広いコミュニティの中で、マスのデジタルマーケティングでは見えてこない、現地のリアルな感覚を重視したレポートをリリース。時代と共に変化する現地女性の心理を読み解き、分析を行ってきた。2020年には台湾に事務所を開設。現在は、台湾と中国の両方の視点から、東アジア女子のリアルトレンドの情報を発信し、彼女らの行動心理を踏まえたアドバイスを行っている。
 中国のデジタル市場の実態は、データで捉えると分かりやすい。今回のセミナーでは、大きく4つのテーマのアンケート調査のデータ分析結果についてお話ししたい。
 一つ目のテーマは「2021年現在の中国デジタル市場」についてだ。中国社会はここ数年で急激にデジタル化した。JETRO(日本貿易振興機構)のアジアレポート(2021年6月調査)によると、インターネットの利用者は10億1,074万人、普及率は中国全土で約72%である。インターネットアプリごとの利用状況を見ると、ネットショッピングの利用率が80%、インターネット動画の利用率は約93%に上る。幅広い世代でデジタル社会の完全実装が完成したというのが現在の中国の状況だ。


「中国女性トレンド×デジタル市場」の変遷 一般人がトレンドをつくる時代

 中国女性のトレンドとデジタル市場のこれまでの15年間の流れについて、両者の関係性を踏まえてお話ししたい。
 2006~2009年は、スマートフォンがそこまで普及していない時代で、2006年はTwitterがデビューした年だ。この時期の中国女性のトレンド収集ツールは紙媒体がメインで、芸能人や雑誌モデルがトレンドセッターという時代だ。
 2009~2011年は、中国でもスマートフォンが少しずつ普及し、2009年にはSNSの「微博(ウェイボー)」が登場した。芸能人や雑誌モデルがこぞってアカウントを取り始め、SNSがトレンドを牽引する時代の始まりだ。
 2011年には決済ツールの「微信(ウィーチャット)」が登場。一般人の日常的なアウトプットにより生活情報やトレンドをインプットする時代になる。
 2011~2013年には、観光ビザの規制緩和が始まり、日本のインバウンドに大きな影響を与え、日本旅行ブームがスタートする時期になる。
 2013年には「小紅書(RED)」と呼ばれる新しいSNSが登場し、「一直播(イージーボ)」と呼ばれるライブ配信サービスが盛り上がりを見せる。「ウィーチャットペイ」が登場したのもこの頃で、幅広い世代にデジタル決済が広がった。トレンドセッターとし「KOL(Key Opinion Leader)」と呼ばれるインフルエンサーが台頭するのもこの頃だ。
 2016年には中国版TikTokの「抖音(ドゥイン)」が登場。エンターテイメント性の高いショート動画を駆使して「Z世代」と呼ばれる若い世代が時代を牽引。一般人のKOL化や、「KOC(Key Opinion Customer)」と呼ばれる一般人がトレンドを作る時代となる。
 そして2019~2021年――コロナ禍においてデジタル社会の完全実装が実現し、現在にいたる。


「中国製ブランド(国貨)」支持率急上昇の背景 中国オリジナルに自信、コロナ禍も後押し

 今回のメインテーマ「中国製ブランド=国貨」の話に入りたい。中国製ブランドを語る上で欠かせないのが「国潮文化」だ。「国潮(グオチャオ)」とは、「中国+潮流(トレンド)」を組み合わせた語で、中国オリジナルのデザインクリエイティブを指す。「国潮」というとコスメをイメージする人も多いかもしれないが、実はストリートファッションカルチャーからスタートしている。2018年に中国のスニーカーブランド「李寧(Li-NING)」がニューヨークのファッションウィークに出展して好評を得た。「中国ブランドでもこれだけ通用する」ということが若年層に認知され、愛国心も加わり国内ブランドに火がついた経緯がある。
 中間層アパレルやコスメ業界における国潮化の変遷を簡単に振り返ってみよう。当初は海外ブランドの模倣や転売などからスタートしたが、ここ5~6年でKOLがトレンドセッターとして台頭。KOLのオリジナルブランド、もしくは企業がバックアップする完全オリジナルブランドの商品が確立され現在にいたる。特にコスメ分野において中国ブランドのブームを作ってきたのが、故宮のミュージアムショップのオリジナル商品「故宮口紅」だ。古き良き昔の中国をイメージさせる美しい意匠が印象的な商品で、これをきっかけに中国のコスメメーカーが中国風の商品を相次いで投入。「中国オリジナルへの自信」「中国の伝統文化へのオマージュ」「コロナ禍における愛国心」の3要素があいまって「中国製ブランド=国貨」ブームへとつながっていく。


国貨コスメの人気の秘密 「圧倒的なコスパ」「先入観の払拭」

 弊社は2021年10月、20~30代の中国女性100名に対し、国貨と購買習慣についてオンラインアンケートを実施した。その結果を紹介しよう。大きく「コスメ」「トイレタリー・ヘルスケア・ホームケア製品」に分けて説明する。
 まずは「コスメ」について。「買ったことのある国貨コスメアイテムは何か?」「どの国貨コスメが好き、または興味があるか?」という2つの質問から見てみよう。
 よく購入されている国貨コスメは圧倒的にメイクアップ系が多い。最近では、ドゥインやREDで「これは買ってはいけない国貨」「これは買うべき国貨」といったレクチャー動画が日常的にあがっている。スキンケアなど直接肌に触れるものについては、まだ中国ブランドの「安全で効果的」というイメージは確立できていないようだ。
 ブランドランキングで1位になったのは、国貨コスメの代名詞ブランド「花西子(Florasis)」だ。中価格帯で、彫刻のような美しいデザインと中国文化をオマージュしたフォルムのリップ、フェイスパウダー、アイシャドウパレットが空前の人気となった。2020年には日本市場にも進出している。2位は中国プチプラコスメの先駆け「橘朵(Judydoll)」だ。豊富なカラーバリエーションと100元以下という安さで、主にZ世代に人気がある。こちらも日本市場に進出済みだ。3位は「小奥汀(Little Ondine)」だ。リキッドアイライナーがKOLの間で大ヒットし、価格の安さもあいまって、「一人一本を必ず持っている」と言われるアイテムとなっている。
 続いて「今なぜ国貨アイテムが人気だと思いますか?」との質問を見てみよう。「価格が安い」「質がどんどん上がっている」との回答が多かった。人気の秘密は「圧倒的なコスパ」と「先入観の払拭」の2点に尽きる。これまでは「コスメといえば海外アイテム」「プチプラコスメは日本や韓国」という固定観念があったが、中国伝統へのオマージュを意識した商品の登場により覆った。これはコロナ禍で海外に行けないことが理由ではなく、中国ブランドそのものへの関心と価値が急上昇したと言えるだろう。
 「どこで国貨コスメの情報を得ますか?」との質問では、RED、淘宝(タオバオ)、ドゥインとの回答が上位となった。Z世代の国貨コスメの情報収集チャネルは、まずはREDで同世代の投稿をチェックするパターンと、タオバオの販売サイトを直接チェックするパターンに2極化している。国貨ブランドの中には、タオバオで販売する前にドゥインのライブ配信で反応を見るといったケースも多い。


トイレタリー・ヘルスケア・ホームケア製品の国貨事情 中国ブランドへの意識はあいまい

 次に「トイレタリー・ヘルスケア・ホームケア製品」について見てみよう。製品分野ごとに、大きく「中国ブランドを買うか」「外国ブランドを買うか」を聞いた。
 「オーラルケア商品」は、中国ブランド傾向と外国ブランド傾向が半分に分かれた。インタビューで掘り下げて聞いてみると、この分野に強いこだわりがある人は少ないが、海外製品を買う場合も「安心・安全」がうたえるような大手ブランドを選択する傾向がうかがえた。
 「シャンプー等のヘアケア用品」は、国内で販売されている商品であっても、P&G、シュワルツコフ、ロレアルといった中国に進出して長い外国企業の商品が多く、中国ブランドへのこだわりや境界線はあいまいだ。
 「洗濯用品」は、基本的に中国ブランドを使用するが、柔軟剤やおしゃれ着洗いなどは国内製品に選択肢が少ないため、意識の高い人はタオバオなどで日本製を含む外国製品を取り寄せている。空前の大ヒットとなっているボール型洗剤は、日本製がきっかけに広まったが、現在は中国メーカーも数多く商品を発売している。
 「殺虫剤・消臭剤等の住居用品」は、ブランドへのこだわりが弱く、例えば消臭殺菌スプレーは、中国の店頭では日本のように細やかなラインナップは見かけない。意識の高い人は日本製を買うといったように、洗濯用品と同様の傾向が見られる。
 「医薬品」は、タオバオでの海外製品の取り扱いができないため、ほぼ中国メーカーの薬を買うという回答だった。ただ、20~30代の女性からは日本製の頭痛薬が欲しいとの声がよく聞かれる。これまでは代理購入などで比較的簡単に入手できたが、渡航や郵送の規制強化で入手しづらくなったため、仕方なく中国製品を使っているとの意見もあった。
 「サプリメント、酵素等の健康食品」は、インバウンドで「酵素ブーム」をもたらした酵素ドリンクや美容系ドリンクにおいて、「天猫国際」や越境ECサイトを利用して引き続き日本ブランドを中心に海外製品を購入する人が多い。コロナをきっかけにサプリメントや体質改善を始めた人も多いようだ。
 中国ブランド(国貨)の急成長における理解のポイントは4つ挙げられる。1つ目は「コロナ禍が、中国ブランド(国貨)の価値発掘のきっかけになった」ということ。2つ目は「中国産ブランドと世界の輸入ブランドが、質・デザイン・機能性において、同じショーケースで戦う土台が整ってきた」ということ。3つ目は「デジタル社会の完全実装により、国内での購入とほぼ同じ感覚で、海外商品をオンラインで購入する感覚が強まった」ということ。4つ目は「愛国心や政治的要素を意識して中国ブランドを購入している20~30代はごく少数で、よりフラットな価値目線で商品を選択している」ということだ。


中国・台湾女性のコスメ情報収集パターン分析 購入先は、中国はタオバオ、台湾は百貨店

 中国と台湾女性のトレンド傾向と情報収集の実態はどうなっているのか。弊社の2021年10月調査では、KOC、メディアエディター、ライターなど、中国・台湾女性の気持ちを代弁する有識者グループに対し、今の現地トレンドについてデプスインタビューを実施。さらに20~30代の中国女性100名、台湾女性80名にアンケートも実施したので、こちらの結果もご紹介しよう。
 1つ目の質問「どのメディアから最新のコスメトレンド情報を入手しますか?」について見てみよう。中国はREDが圧倒的に多く、これにタオバオとブランドの公式サイト・アカウントが続く。今の20~30代の中国の女性にとって、REDは親近感があり、詳しい情報をゲットできるSNSメディアとの認識だ。特にコスメに関しては、使い方や使用感、ラインナップなどを詳しく知ることができ、さらに広告感も少ないという意味で支持されている。REDを一旦チェックしてから、その他のSNSやタオバオを覗くという行動パターンが非常に多い。一方、台湾はインスタグラムが上位を占める。中でも注目すべきはブランドアカウントと友達のアカウントが1位、2位になっている点だ。KOLの情報をそのまま信用するよりも、公式な正しい情報を得たいという台湾女性の心理が働いている。なお、REDは台湾でも5位にランクインし、中国女性と同じような感覚で利用されている。日本のコスメ業界にとっても重要ツールと言えるだろう。
 2つ目の質問「どこでコスメ、スキンケアアイテムを購入しますか?」について。中国は圧倒的にタオバオが強い。一方、台湾は百貨店が抜きん出ている。台湾の百貨店は人口に対する密度が世界1位と言われ、日本の百貨店も合弁企業として多く展開している。2位には「蝦皮(Shopee)」が上がっている。台湾の有名なeコマースサイトで、タオバオのような存在だ。これらを両輪で使い分けながらショッピングをしている。
 3つ目の質問「参考にしている(好きな)芸能人、KOLのメイクスタイルは?」について。中国のトップは「中国人の芸能人、KOL」で、これに「韓国人の芸能人、KOL」「日本人の芸能人、KOL」が続く。台湾のトップは「韓国人の芸能人、KOL」で、2位は「欧米人の芸能人、KOL」、3位は「日本人の芸能人、KOL」となっている。
 中国人が好きなメイクのイメージは「かっこよくてセクシーでエレガント」で、強いインパクトのある女性らしさが求められる。日本で根強い人気の「優しく馴染んでいくようなベージュ系・ピンク系」といった商品は売れづらい傾向があり、赤やブラウンをベースにしたようなはっきりとした色味が受ける。
 中国・台湾の両方の上位にランクインする「韓国の芸能人、KOL」は、Z世代に圧倒的に訴求している。韓国アイドルやドラマの影響が強く、「セクシーで強い女の子」というイメージかメイクのお手本になっているとの声がインタビューでも聞かれた。
 ファッションに絡む質問については、メイクと同様の傾向が見られたので割愛する。


日本ブランドの対応 現地のニーズに的確にフィットした商品展開・PRを

 続いての質問「コロナ禍以降、どこで日本の商品を買っていますか?」について見てみよう。中国の1位は天猫国際、2位は代理購入(業者ではなく友達や決まった個人)、3位は越境ECサイトだ。台湾も同様の結果となっている。
 代理購入についてインタビューすると、コロナ禍の影響で代理業者が日本の商品を実際にチェックできなくなり、信用性に欠けるため、友達や決まった個人に選んでもらう方が良いとのことだった。
 「越境ECサイトを使ったことがありますか?」との質問は中国のみに質問した。88%が「使ったことがある」と回答。その中で1位が天猫国際で、これに「考拉海購(Kaola)」とアマゾンが続く。これら以外にも多くの越境ECサイトがあり、例えば「京東(ジンドン)」がよく知られる。今回のアンケートは回答者が若年層だったこともあり、トレンド商品をゲットするモールということで天猫国際に軍配が上がった格好だ。
 「日本へ旅行したことがありますか?」との質問も投げかけてみた。中国の約7割、台湾の9割以上が訪日リピーターだった。さらに「コロナ終息後、日本へ旅行に行くならどんな旅行がしたいですか?」との質問では、中国・台湾ともに断トツで「食事に行く」で、これに「温泉に行く」「ショッピング(コスメ)」が続く。東アジアの若年層の女子は「これまでと変わらない楽しい日本に早く行きたい」と思っていることがよく分かった。
 これまで日本で盛り上がりを見せたようなインバウンドがはたして戻るのか――仮に戻ったとしても、個人的には「全く同じではない」と考えている。「全く同じではない」というのは「売れ行きが良い悪い」ということではなく、「中国人女性の判断基準が変わってきた」という意味だ。中国のオリジナルのブランドは日本ブランドや海外ブランドと同じ棚に並ぶイメージに変わり、存在感が増している。
 今回紹介した情報は、中国女性の“現在のリアル”を色濃く反映している。現地の女性たちの感覚は日本の消費者と同様、コロナ禍だからといって輸入製品の買物に困ることはなく、手に入らないという感覚もない。今回の彼女たちの声もヒントに、日本製品の良さ・強みを生かして、現地女性のニーズに的確にフィットした商品展開・PRを実施していただきたい。