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インバウンドセミナー

訪日旅行者と新たなインバウンド市場を考える

「中国旅行消費の現状および訪日中国人客の消費動向」

株式会社BRAND JAPAN 代表取締役社長
李 思萱 氏

中国人の消費は「モノ」から「コト」へシフト、買物も質重視に

 8月10日に中国から日本への団体旅行が解禁される一方、同月末には福島の処理水問題が起こり、中国人の動向は現在とても注目されている。
 今年は9月から10月にかけて国慶節・中秋節という大きな休みが連なり、さらに3日間休みをとれば11連休となる。国内旅行者は延べ8.96億人にのぼると推測され、これはコロナ前の2018、19年を上回る。2023年第2四半期を見ても、国内旅行の延べ人数・市場収入ともに2019年とほぼ同レベルまで回復している。
 消費傾向としては、GDPに占めるサービス消費の割合が、2019年の45%から、2030年には52%になると予測されている。経済成長が徐々に鈍化するなかで、中国人の消費はモノからコト・体験へと移り変わっていくと見られる。
 モノ消費の動向を探るうえで注目すべきは、海南島の免税店だ。2023年のゴールデンウィーク5日間の免税品販売額は8.83億元(約175億円)だったが、2021年のピーク時に比べると消費延べ人数は9.9%、一人あたりの消費単価は1.3%低下している。その要因としては代理購買の規制、海外旅行の解禁、ネットでも購入可能になったことが挙げられる。
 海南島の免税店ではハイブランドの化粧品やブランド品が3~5割引きで買えることもある。中国国内でも海外のブランド品が安く買えるようになったことは、中国人訪日客の消費動向に影響するだろう。「爆買い」は減り、質を重視した理性的・計画的な消費が主流になるだろう。


訪日客一人あたりの買物代は中国がトップ

 続いて、海外旅行をする中国人消費者の現状について解説する。
 2023年7月時点で中国の国際便フライト数は2019年比で46.8%。そのうち東南アジア行きが42.7%、東アジア行きが32.9%を占めている。これからアジア行きも欧米行きも便数が増えていくだろう。
 中国人のラグジュアリー品消費の状況を見ると、コロナによって2020年から国内での消費額が大きく伸びていたが、海外旅行の再開に伴い、2022年は国内消費が前年比15%減、海外消費が16%増となった。今後、海外旅行のさらなる解禁により、日本でもラグジュアリー品消費が期待できる。
 日本政府観光局(JNTO)のデータでは、2023年4~6月の訪日外国人旅行者の消費額のうち中国が占める割合は12.6%で、台湾、米国に次ぎ3位だ。ただ、一人あたりの買物代は、他国がいずれも10万円未満なのに対し、中国は16万円以上で、購買力の高さがうかがえる。
 福島の処理水問題については、8月29日の訪日意欲アンケート調査によると、「安全のために行かない」が38%、「今の安いうちに行く」が27%、「予定済みなので、影響を受けずに行く」が21%と、半数近くは「行く」と答えている。今後の懸念としては、個人が気にしていなくてもプラットフォーム側が大きく宣伝できないため日本への旅行商品の販売数が増えず、団体旅行は影響を受けそうだ。また日本以外の国も中国人誘致に注力しているため、日本が競争に勝てるかどうかも課題となる。
 中国人富裕層へのアンケートでは、海外旅行でやりたいこととして、「自然を楽しむ」(57.8%)、「グルメ、美食の旅」(52.2%)など体験型の目的が上位に並んだのに対し、「買物」は42.9%にとどまり、メインの目的ではなくなってきている。もちろん、来日すれば買物も付属行動として必ず行われ、買物にかける時間は減る一方で単価は上がると考えられる。


SNSは口コミを促す戦略が重要に

 訪日した中国人はスマホで店や商品を探しているが、ここにも大きな変化が見られる。以前は買物リストをあらかじめ作成しておき、買えるところをスマホで検索するという消費スタイルだった。現在は、自分が興味のあるコンテンツを見て、そこから自分に合いそうな商品をリストアップするというスタイルに変わってきている。
 その背景にあるのは、中国のSNSの「去中心化」と呼ばれるコンテンツ推奨方法の変化だ。「去中心化」とは、日本語では「影響力の分散化」といった意味で、プラットフォームのアルゴリズム変更により、個々のユーザーの興味に合わせたコンテンツが届けられるようになった。また、消費者も口コミを重視するようになっている。これまでの日本企業による中国人向けSNS宣伝方法は、公式アカウントをつくって商品情報を発信する、あるいはKOL(インフルエンサー)や広告を使って商品をプッシュするといった手法だった。このような、SNS上に情報を置いておいて消費者が探しに来るのを待つ一方通行のマーケティングでは、いまの消費者は反応を起こしにくくなっている。消費者が自ら宣伝してくれるようにすることが、今後のSNS戦略では重要になる。自社オフィシャルの発信もこれまで通り行いつつ、ユーザーの積極的な発信を刺激することとの2軸で考える必要がある。


話題性のあるコンテンツでUGCを増やす

 成功事例をいくつか紹介したい。
 パリにある高級香水店に入った中国人客が、中国の田舎でよく流れている曲が店内BGMとしてかかっているのに驚き、動画を投稿して20万回以上シェアされた。これを見た多くの中国人が来店し、買物をしたり新たな動画を投稿したりした。
 ルイ・ヴィトンは上海でカフェとコラボして、それぞれ赤・青・黄を基調にした3つのブックカフェを期間限定でオープンさせ、コーヒーと本を買った人に布のバッグをプレゼントするイベントを行った。訪れた消費者はそれぞれのスタイルで発信し、たとえば店と同じ色の車で訪れて画像をアップするといった楽しみ方をしている。
 フェンディは中国産のお茶のブランドである「HEYTEA(喜茶)」とコラボし、これも中国のSNSで話題となり、3万本以上のユーザー生成コンテンツ(UGC)が発信された。学生など、通常はフェンディのような高級ブランドには手の届かないユーザーたちの投稿も多かった。
 意図的なプロモーションの例ではないが、ANAのキャビンアテンダントが飛行機に遅れそうになった搭乗客のスーツケースを持って空港を走る動画が中国で話題となり、WeChatだけで200万回以上再生された。日本では当たり前の光景であっても、中国では感動されることもある。ユーザーの投稿によって、企業自身も気づいていなかった魅力が掘り起こされた事例と言える。
 SNSを活用するには、まず話題になりそうなコンテンツをつくる必要がある。そしてユーザーの参加を促し、UGCを増加させる。それらが拡散されることで、さらに多くのユーザーが参加し、UGCもまた増加するという循環ができる。富裕層も、自分では投稿しなくてもUGCを参考にするので、その消費行動にも影響を与える。