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インバウンドセミナー

訪日旅行者と新たなインバウンド市場を考える

「最新のインバウンド市況と対応事例」

一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 代表理事 事務局長 
株式会社USPジャパン 代表取締役社長

新津 研一 氏

訪日旅行者数がコロナ前水準を超える国も

 直近のデータでは、訪日旅行者数は2019年比で85.6%、消費額は95.1%まで回復している。消費額が旅行者数より10ポイント程度高いので、客単価が上がっていることがうかがえる。2023年5月時点の訪日旅行者数を国別に見ると、米国、カナダ、ドイツはすでに2019年比で100%を超え、韓国も85.5%とコロナ前の水準に近づいている。中国は17.8%にとどまっており、回復はこれからだ。また、インドネシアやベトナムも100%を超えているが、ここには留学生や労働者も含まれており、日本の観光産業や雇用を支えてきた彼らが戻ってきていることも重要な要素だ。
 2023年の訪日旅行者数は2100万~2500万人になると予測される。訪日ブームと言われた2012~2019年をはるかに上回るペースで増加しており、まさにV字回復であり、今後さらに伸びていくことが見込まれる。


滞在日数の長期化などで一人あたり消費額が上昇

 訪日旅行者一人あたりの消費額は、コロナ前は16万6千円だったが、現在は21万2千円に達している。これは日本だけでなく世界的に見られる傾向で、国際旅行をする人がコロナ前よりも多くの消費をしている。つまり、円安だけでは説明できない。2022年第2四半期には、韓国で外国客の消費単価が2019年比で5倍を超え、ほかの国でも2~3倍に達していた。現在は各国とも1.5倍程度まで落ち着いているが、下げ止まりの兆候も出ている。
 訪日旅行者の消費単価上昇の要因には一時的なものと持続的なものがある。一時的な要素としては、「リベンジ消費」や、早期に旅行をした人の中に高所得者や消費に積極的な層、欧米からの長期滞在者が多かったことなどが挙げられる。こうした要素による単価上昇効果は、徐々に低下していくと予想される。持続的な要素には、物価上昇と為替の影響、高単価リピーターの増加、平均滞在日数の長期化、国際旅行における高所得者層のシェア上昇などがある。なかでも平均滞在日数については、最近私の会社が東京の浅草で100人の方にアンケートをとったところ、8割以上が1週間以上の滞在だった。
 消費単価を部門別に見ると、2019年1~3月と2023年同期の比較で、宿泊費、飲食費、交通費、娯楽サービス費などは伸びているのに対し、買物代はマイナスになっている。中国人客が戻っていない影響が大きいが、他部門に比べてインバウンド向けのプロモーションが遅れていることも、小売の売上が伸びない要因だろう。


処理水への反応は情報入手能力により差が出る

 直近では福島の処理水問題があるが、影響は限定的と見られる。中国のなかにも情報入手能力が高い消費者と比較的低い消費者がおり、反応に違いが出るだろう。情報入手能力は経済力や人的ネットワークの有無、ビジネスに携わっているか、留学経験があるかといった要素に左右される。情報入手能力が高い層はもともと個人旅行(FIT)をしている人々で、訪日する数は増え、日本での消費も伸びている。情報入手能力が中程度の層は団体旅行をするグループの人々で、訪日する数は3割~最大5割減と予想される。ただし日本が好きな層なので、来日すれば魚も食べるし買物もするため、消費単価には影響しないと考えられる。最も情報入手能力が低い層は、中国国内でも日本の商品を避けることがあるだろうが、もともと訪日しない人々なのでインバウンドへの影響はない。
 同様の問題は尖閣諸島国有化の際などにも起きたが、今回についても情報入手能力の高い層の行動が比較的低い層に波及していくと見られ、大きな影響が出たり、長期化したりすることは考えにくいのではないか。


政府はリピーター増加や地方への誘客を重視

 2023年3月31日に、リニューアルされた「観光立国推進基本計画」が閣議決定された。政府のプロモーションによって日本に来る人の質も市場も変わるため、政府の方針を知っておくことは重要である。
 まず、目標が変わった。従来は「客数、総消費額」だったが、「一人単価、一人の宿泊日数、持続可能な観光地域づくりに取り組む地域数」になった。これは大きな変更だ。数よりもリピーターを増やす、消費単価を上げる、泊数を延ばす、サステナブル・ローカルな日本らしい資源を売っていくことに目標が置かれ、とりわけ「高付加価値で持続可能な観光地域づくり」に多額の予算が充てられている。
 「地方誘客」がメインになっているわけだが、実際には、訪日観光客は関東・近畿に偏在しており、コロナ前の水準に戻っていない地域も多い。国際線チャーター便が地方に飛んでいないことが要因だ。
 リピーターについては、2019年1~3月と2023年同期で訪日4回目以上のリピーター比率を比較すると、34.2%から44.5%に増加している。これは商品戦略にも影響するだろう。


中国人ゲストの回復に備える施策が必要

 この3年間でしっかり準備して、直近でも動いた事業者はいま、2019年比で2倍の売上を上げている。こうした事業者は高付加価値化やデジタル化、地方誘客に対応し、政府の事業も活用している。
 たとえばゴディバはこの3年間で地方の銘菓との協業を進めていた。愛媛の一六タルトと組んだ商品は大変な人気で、沖縄のちんすこうや北海道の乳製品のお菓子などともコラボしている。
 百貨店では全国の86店舗が合同で、中国の大衆点評とタイアップして、今年の国慶節・中秋節にあたり国際航空券のプレゼントキャンペーンを行った。これはリピーターの取り込み・育成にもつながる施策と言える。
 中国人マーケットを狙った5つ星ホテルの状況も紹介したい。関西圏ローカルのマリンリゾートホテルで、客室は100室未満、一泊朝食付で一人4万円程度と高額だが、2022年のダブルイレブン(11月11日)にキャンペーンを行って300人泊を販売。さらに今年6月18日のキャンペーンでは、上限の5000人泊が即完売している。現在ではインバウンド比率が50%にのぼり、うち中国が80%を占めている。そのほとんどがオンライン予約で、個人旅行が95%以上、平均泊数は日本人の1.2泊に対し2.5泊だという。
 大阪の黒門市場は、客数が2019年比で6割までしか回復していない。要因は中国人客が戻っていないことだ。しかし、一時は50%以上の店が閉まっていたのが、空き店舗はすでにゼロになっている。事業者による多言語スタッフの配置やプロモーション、環境整備はこれから行われるという状況だ。
 見てきたように、インバウンドはここまで回復して、先行する事業者はコロナ前の倍の売上を上げている。しかし本格的に中国人ゲストを迎えるのはこれからで、そのときには買物の仕方も変わってくる。周囲には環境整備が遅れている事業者がいることも考えれば、まだまだこれから打つ手はあると言える。