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「電子帳簿保存法改正Webセミナー」を開催

令和3年度電子帳簿保存法の改正概要
~電子化の留意点と電帳法対応をどうするか?~

SKJコンサルティング合同会社
業務執行社員・税理士
袖山 喜久造

デジタルデータの活用がDX推進のカギ

 電帳法は1998年に施行されたが、当初は要件が厳しく、民間事業者の電子化がなかなか進まなかった。これまで数度の改正で要件が緩和され、今回の改正により電子化のハードルがこれまで以上に下がった。一方で、データの保存については厳格化され、電子取引データを保存していなければ、税法で保存が義務づけられている帳簿や書類がないことになる。また、データ改ざんには重加算税が加重賦課されるようになる。
 法改正の内容に先立ち、改正後の電子化の検討ポイントを解説する。
 取引先との間で書類や取引情報をどのようにやり取りし、社内でどう処理するかが電子化の検討ポイントだ。やり取りした書類は、データであっても紙であっても、保存が必要だ。これをデータで保存したり紙で保存したりして二元管理・三元管理すると、書類が探し出せない、内部統制が強化できないなどの問題が出てくるため、データ化して保存することがポイントになる。
 今後はコロナ禍によるテレワークの普及もあり、取引先とはデータでのやり取りが主流になるだろう。そのデータの形式によって、自社システムの処理の仕方が違ってくる。たとえば取引書類をPDFで受け取った場合、記載内容は画像データなので、OCRやAIを使って読み取り、自社システムに入力する方法が考えられる。認識度は100%ではないため入力内容の確認が必要だが、多少は効率化が図れる。CSVなどのテキストデータなら、自社システムのフォーマットに直すインターフェースの構築が必要になる。EDIシステムで既にインターフェースが構築されていれば対応の必要はない。また、消費税のインボイス制度が2023年10月に導入されるにあたり、電子インボイス(適格請求書)の統一フォーマットが検討されているが、そこではPeppol(ペポル)というデータ形式が使われる。これは共通フォーマットなので、共通のインターフェースを使って自社システムに取り込むことができる。こうした取引書類を受け取ったときに元のデジタルデータを活用できるかどうかが、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の成否にかかわるため、やり取りするデータの形式や内容を検討する必要がある。


EDIデータ保存に対する法令執行が厳格化

 今日の話のメインであるEDI取引のデータは、電帳法施行当初から保存が義務づけられていたが、これまでは保存できている会社が非常に少なかった。私は10年ほど前まで東京国税局で大規模法人の法人税調査を担当していたが、「EDIデータは自社システムから作られるので、自社システムの中のデータを保存している」「受け取ったデータは自動的に自社システムに取り込まれるので、取り込まれたデータを保存している」という会社がほとんどだった。やり取りされているEDIデータは紙の書類に代わるもので、取引の証拠になる。これが保存できていなければ、書類の保存ができていないことになる。今後、電帳法の法令執行がより厳格になるため、EDIデータの保存と、電帳法への対応が必要になる。保存すべきデータは、EDIシステムでやり取りされている「業務メッセージ」や、「データ項目」という取引内容の詳細情報であり、フォーマットに沿ってそのまま保存する必要がある。保存方法については電帳法取扱通達7-1で規定されている(図1)。暗号化されたデータではなく暗号化前、または復号化されたデータを保存する必要がある。やり取りの過程で訂正削除が発生した場合は、確定情報のみを保存すればよい。ただし見積情報はすべてのデータを保存しなくてはならない。また、単価や商品情報などマスター情報を参照しなければ何が書いてあるか分からない場合には、マスター情報も含めて保存することが必要だ。


図1

電子取引データの紙出力保存は不可に ※2022年1月1日から2023年12月31日までの間、猶予期間が設けられました

 電帳法の条文の構成は二つに分かれる(図2)。一つ目は「国税関係帳簿書類の保存方法の特例」だ。法人税法や消費税法、所得税法、酒税法などの各税法で保存が義務づけられる帳簿や書類は、紙で保存するのが原則だが、それをデータで保存することを電帳法で容認している。もう一つが「電子取引に係るデータの保存義務」だ。たとえば法人税法では、請求書などの取引書類の保存を義務づけているが、それをデータでやり取り(電子取引)した場合の保存義務・要件を電帳法で規定している。今年の改正で、これを紙に出力して保存することができなくなり、来年からはデータで保存しなくてはならない。図3に整理すると、まず帳簿については税法の規定に従って作成し、データで保存する場合には電帳法の要件に従う必要がある。書類は、自社で作成したデータがあればそれを保存できる。相手から受け取った紙の書類はスキャニングしてデータで保存してもよいが、その場合は電帳法の入力・保存要件に従わなくてはならない。EDI、電子契約サービス、メール、FAXなどで電子取引を行った場合については、データの保存要件が電帳法で規定されている。


図2

図3

保存義務違反やデータ改ざんへの処分が厳格化

 今年の改正内容のトピックは図4の通りである。3と5については後に詳述する。
 1:承認制度が廃止される。これまで帳簿書類をデータで保存する場合には、事前に承認申請書を所轄税務署に提出して審査を受ける必要があったが、この手続きが不要になる。帳簿は2022年1月1日以降に開始する事業年度分から、書類は同日以降に保存を開始する書類のデータから適用される。
 2:罰則規定が強化される。承認制度の廃止により、納税者が電帳法に対応できているかどうか事前に確認することなく電子化が可能になるため、法令執行がより厳格になる。税務調査で法令通りに保存できていない帳簿や書類があった場合、青色申告・連結納税承認の取り消しなど厳しい処分や指導が行われると予想される。また、紙の書類で不正計算などの改ざんを行った場合、追徴税額×35%(2回目以降は45%)の重加算税が賦課されるが、スキャナ保存および電子取引データの改ざんを行った場合はさらに10%加重に賦課され、45%(2回目以降は55%)となる。要件を緩和する一方で不正に対する罰則が強化されているため、社内で不正がされないような業務手順を検討した上で電子化を進めなくてはならない。
 4:国税関係帳簿の要件が緩和される。これまで帳簿をデータ保存するには、帳簿作成システムについて厳しい要件があり、事後検証可能性を確保するために訂正削除の履歴をすべて残すことなどが求められていた。このため中小企業の電子化が進まなかったが、こうした要件が廃止され、データで保存することが容易になった。これまでの厳しい要件で承認を受けた帳簿は「優良電子帳簿」とされ、税法上義務づけられた帳簿をすべて優良電子帳簿で保存できる場合、過少申告加算税が5%減免される。つまり税務調査で追徴税額が発生しても、10%の過少申告加算税が5%で済む。


図4

2022年1月以降の電子取引データはまず保存を

 3:これまで電子データを紙に出力して保存することが認められていたが、改正によりデータでの保存が必須になった。消費税法の仕入税額控除の要件は電子インボイスの書面保存を容認しているが、法人税の納税義務者は電子取引データの書面保存ができない。この改正は2022年1月1日に適用される。すぐに対応できる会社は少ないだろうが、遅くともこの日が含まれる事業年度の法人税の確定申告書を提出するまでには電帳法対応をしていただきたい。まずは自社でどんな電子取引をしているかを把握して、2022年1月1日以降に行われる電子取引のデータが削除されないように会社のファイルサーバーなどに整理して保存しておき、電帳法に対応した文書管理システムを導入していただきたい。電子取引の件数が少ない事業者や小規模事業者はシステムを導入せずファイルサーバーなどに保存してもいいが、所定の期間保存できること、すぐに取り出せるようフォルダにデータを整理しておくことが必要だ。
 データの保存方法は電帳法施行規則で規定されている(図5)。(1)保存場所については、送受信者の双方が保存しなくてはならない。納税地でデータを見ることができれば、クラウドサーバーでも可能だ。(2)保存期間は原則7年間で、繰越欠損金が生じた事業年度については、青色申告や連結納税の承認を受けている会社は10年間保存が必要だ。このくらいの期間は保存できるように保存領域の検討をしていただきたい。(3)データの真正性を担保するために、電子取引の授受方法ごとに①~④のいずれかの措置をとる必要がある。①②はタイムスタンプを使う方法だ。①は送信者側でタイムスタンプを付けて送ってもらう。②は主に受信者側で行う措置で、電子取引の授受後、約2カ月以内にタイムスタンプを付与して保存する。このタイムスタンプは日本データ通信協会が認定する五つの事業者が発行するものを付ける必要がある。③は訂正削除ができないシステム、あるいは訂正削除の履歴が残るシステムでデータを授受・保存する措置だ。たとえばEDIシステムで訂正削除履歴をすべて保存する場合などが該当する。④の「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」は国税庁のホームページに雛型が掲載されている。規程には、どんな電子取引をどのように保存するか、訂正や削除をしてもよい正当な理由をどこに置くかを盛り込まなくてはならない。これらは社内で検討して決める必要がある。(4)保存要件については、電子取引を行うシステムの概要や、保存されているデータが出力できるような操作マニュアルなどの関係書類を備え付ける必要がある。また、データが整然とした形式および明瞭な状態で出力できる「見読性」を確保しなくてはならない。検索機能については今回の改正で緩和され、書類の種類ごとに日付・金額・取引先の3項目で検索できればよい。日付・金額は範囲指定ができること、2項目以上の複合的な条件設定ができることも要件になっている。それができない場合には、ダウンロードしてパソコンなどで検索する方法も認めている。


図5

不正防止の仕組みや税務調査対応準備は必須

 5:国税関係書類のスキャナ保存の要件が緩和され、税務署の承認がなくても、財務省令に従った保存ができれば原本が廃棄できることになった。ただし廃棄してしまうとデータが電帳法の要件通りに入力・保存できていなかった場合に元に戻すことができないので、必ず原本は保存しておいていただきたい。保存期間は法令の保存要件と同じで7~10年間だ。
 スキャナ保存の要件は、システム系と運用面の二通りある。システムは図6左上の6項目が満たされたものを使う必要がある。日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が要件を満たすシステムを認証する制度があり、認証された製品が国税庁のホームページでも公表されている。今回の改正で、タイムスタンプを付与したのと同じ状況で保存できる場合にはタイムスタンプは不要になった。たとえば他社管理のSaaS型クラウドサーバーで、訂正削除ができない方式で保存され、そのサーバーの時刻設定が公共時刻情報(NTPサーバー)と同期されていることが要件だ。これにより、中小企業もシステム投資を抑え、クラウドサービスを利用して電子化ができるようになる。検索項目は電子取引データの検索項目と同じで、日付・金額・取引先の三つに限定されている。入力機器と出力機器については改正点がないが、要件を満たすものを準備する必要がある。
 運用面の要件は三つに分かれる(図7)。従来、経費精算の領収書など特に速やかに入力すべきものは期限が概ね3営業日以内と非常に短かったが、これが廃止され、どんな書類も約67日以内に入力すればよくなる。さらに二人以上の体制での入力などを義務づけた「適正事務処理要件」は廃止され、一人で入力できるようになった。しかし、これまで厳しい要件で不正を防止していた規定がなくなったため、今後は自社で処理の適正化を図る必要がある。会社の状況や従業員数、電子化する書類の種類などに応じて最も適正に入力できる方法を検討していただきたい。これまでは承認プロセスを多くしたり、チェックする人数を増やしたりすることで対応する会社が多かったと思うが、電子化の際には承認プロセスは極力減らして責任の所在を明確にし、データを管理することで不正防止や業務管理を行っていただきたい。そして、電子化にあたって申請書の提出は不要になった。ただし税務調査の際は電子化の内容や電帳法の対応状況を説明しなければならないため、税務調査対応の書類は準備する必要があり、承認申請書に近いようなものは作っておくべきだ。


図6

図7