株式会社プラネット

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インバウンドセミナー

「インバウンド消費 ~その実態と可能性~」

「モノ」から「コト」への変化する外国人観光客のニーズを理解しよう 
2015年に日本を訪れた外国人観光客数は2,000万人に迫り、現在も増加を続けている。彼らは日本をどのように見ているのか? 何に興味を持っているのか? そして今後はどうなるのか。プラネットは5月26日、東京・大手町において「インバウンド消費」をテーマにしたセミナーを開催し、インバウンド情勢に詳しい新津研一氏、中国を舞台にビジネスで活躍されている柳瀬真弓氏を講師に迎え、流通業界の皆様と共に、新しいマーケットとしてのインバウンド市場が潜在的に秘めている可能性について考えた。

現地のリアルに寄り添う中国人目線の
インバウンド販促A-Z

Reflections General Office 株式会社 代表取締役
柳瀬 真弓 氏

(PLANET vanvan 2016年夏号(Vol.111)掲載記事より)PDF PDF版 (2.08MB)

まずは、中国のリアルを知ることから

 ブランディングやプロモーションを考える際、訪日中国人向けに日本国内で商品やサービスを販売するのと、中国に進出して現地で販売するのは基本的には同じことだ。その根底にあるのは、中国の方々にどのように気に入られるかである。私はこの10年、北京に暮らしながら中国のリアルを見続けてきた。今日は、私が仕事で接する機会の多い20~40代の中国人女性の生活や感覚を中心に、具体的に今、中国はどうなっているのか、どうすれば中国人に受け入れられるブランドをつくれるのかをお話したい。
 まず知ってほしいのが、現在、中国で信じられている日本の情報は、日本発信の情報ではないということだ。かつて中国では、日本は憧れの存在で、日本のファッション誌をそのまま翻訳したものが多く売られていた。しかし最近では、日本のファッションやデザインをイメージして中国人がつくった“日系ファッション雑誌”が圧倒的な人気となっている。今、中国で支持されている「日系」とは、中国人にとってわかりやすい、中国人が考える日本の情報なのだ。日本企業が懸命に情報を発信しても、中国人に寄り添った目線が欠けていると、中国人には届かない。
 中国人のターゲット顧客をセグメントする際には、日本とは違ったアプローチが必要となる。文化やセンス(感度)のレベルは、日本ではある程度平均的だが、中国では文化やセンスのレベルには、所得格差と同じくらいの大きな格差がある。この感覚が日本人には想像しづらい。同じような所得層でも、地域や教育によって暮らし方はまるで異なる。また、自由に情報にアクセスできない環境だからこそ、自ら積極的に最新の情報を収集できる人ほどセンスレベルが高くなる。
 化粧品を例にとると、中国人女性はそもそもあまり化粧をしないが、ハイセンス層の場合、メイクはできるがあえてしない、あるいは非常にメイク技術が高い人が多い。中間のトレンドセンス層は、メイクは得意ではなかったが、流行を追うために練習している。ただし必要がなければ化粧しないことも多い。そして、最も多い一般センス層になると、基本はスキンケアのみでメイクする必要を感じていない。このようにターゲットのセンスレベルによって、どういった化粧品をどのように売ればいいか、戦略は変わってくる。中国ならではのセグメントを意識することが重要だ。


決済も情報収集もスマホの時代

 中国人のインバウンド対策として、日本では多くの店が銀聯(ぎんれん)カードに対応するようになった。しかし今、中国で圧倒的に利用されている決済手段は、Alipay(支付宝)マネー、WeChat(微信)マネーといった電子マネーだ。これらは仮想通貨だが、現金と完全互換性があり、銀行口座からチャージしたり、口座に戻して現金化したりする際に手数料はかからない。AlipayやWeChatのアプリを使うと、スマホ上で100万円規模のお金をワンクリックで友人に送金することができる。さらにここ1,2年で、店頭での買い物はもちろん、航空券を買う、電気や水道などの料金を支払う、金融商品を買う、あるいは寄付をするといったことまですべて電子マネーで決済できるようになってきた。最近では、ビザ発給の際にAlipayマネーが正式な資産として認められている。
 中国人は、お金をたくさん使うことがすばらしいと考えている。貯蓄するよりできるだけお金を社会に回したほうが、将来自分にプラスになって戻ってくるという発想である。それを顕著に表す習慣が「紅包(ほんばお)」だ。日本のお年玉のようなものだが、祝日やめでたいことがあった時に、家族だけでなく、友人・知人へ幅広くお金をプレゼントする。これがWeChat上でシステム化されていて、金額を決めて友人リストを選択すると一斉に送金することができる。驚くことに、ランダム機能を使ってあまり親しくない知人にお金がまとめてプレゼントされることもある。このようにお金をどんどん使いたいという中国人の文化と、いつでもどこでも簡単に決済できる電子マネーは親和性が高く、今や中国の消費活動は完全に電子マネーが主流になってきている。そのため、日本に来てAlipayマネーやWeChatマネーが使えないことに不満を感じる中国人は多い。
 中国人のショッピングについては、もう一つ大きな特徴がある。それは、コミュニケーションなしでは買い物をしないということ。たとえばオンラインショップで買い物する際も、値下げ交渉から商品に関する質問まで、店の人と30センチの距離感で会話(チャット)しながら購入する。どうやって中国人に親近感を持ってもらうかを考えた時、中国人の日常の習慣に寄り添うことが重要だ。その意味で、WeChatのアイコンを店頭に配置するだけでも絶大な効果があると思う。WeChatはLINEと同じようなコミュニケーションツールで、このマークが掲示されていない店舗は中国では非常に少ない。日本人はシャイでコミュニケーションが苦手とされるが、難しいことは考えず、まずWeChatのアカウントをつくって、そこに商品の説明をアップしてみてほしい。それだけで、中国人との距離感はかなり近くなるはずだ。
 また、中国人は気に入ったものがあると、すぐ写真に撮って人に自慢したがる。そうした口コミの影響力は絶大だ。20~40代の女性に関して言うと、彼女たちは必ず商品と一緒に自分も写った写真をSNSにアップする。そこで店内に、写真を撮ってかわいく見える撮影スポットを作るだけでも、完全な差別化を図ることができる。また、「プレゼント包装にされますか」の一言でも3倍売れる。中国ではプレゼント包装をサービスするという概念がないからだ。中国人の友人は、「日本の書店で本を購入したらブックカバーをつけてくれた」と感動していた。このように中国人の目線で見直せば、特別なことをしなくても響くサービスはたくさん考えられるだろう。
 


中国人目線のプロモーションとは


▲会場風景

 中国人は、情報収集から情報のシェア、購入決済まで、すべてをスマホで完結させる。つまり、伝えたい情報がスマホにアップされているかどうかが、これからのPRの一番のカギとなる。Webプロモーションでは、先述の中国版LINEであるWeChatと、中国版TwitterであるWeibo(微博)が2大巨頭とされている。WeChatでは、友人、知人やお気に入りの公式アカウントから密度の濃い情報を得ることができる。一方、Weiboは短文SNSのため情報の内容は薄いが、情報を広範囲に拡散することができる。今、中国ではこれらの2大メディアを活用し、動画や生中継などの流行を取り入れたPRが最も効果的な手法となっている。
 最後に、これまでお話ししてきた中国のリアルと最新トレンドを踏まえた中国向けPRの事例として、弊社がお手伝いした香川県観光協会のプロモーションをご紹介したい。香川県は当初、残念ながらとても認知度が低く、日本の県であることすら知られていなかった。そこでまず、香川県はこうである、という概念を一切忘れることから始めた。既存のブランドをいったん解体・分析し、中国人目線で魅力的なセールスポイントを絞り込んでいく。私はこれをリブランディングと呼んでいる。実は香川というのは都会的で、ショッピングにも食べ歩きにも便利な街だ。さらに、瀬戸内の景色やアートも楽しめる。こうした点をクローズアップし、2016年に開催される「瀬戸内国際芸術祭」を中期的ゴールに設定して、3年計画を立てた。1年目の2014年は香川の認知度を上げることに注力し、2年目に現地と一体となったPRを実施、3年目に「瀬戸内国際芸術祭」に向けて集客に集中したPRを展開するという流れだ。
 「香川県」を知らない中国人に、いかに「KAGAWA」の魅力を伝えるか。私たちは感度の高い個人旅行者をターゲットにして、その価値観に合わせてトレンド性やファッション性を大事にしたプロモーションを展開した。具体的には、中国国内で人気の高いおしゃれな雑誌に記事を掲載し、また人気ブロガーや人気カメラマンを招聘して撮りおろしの観光ガイドブック『香楽川行』を作成。同時に、旅の模様を自撮りした動画をWeChatやWeiboで継続的に定期配信した。プロモーションをしっかりと浸透させるためには、このようにインパクトのある「点」を継続的な「線」でつなぐアプローチが重要だ。
 定期配信した動画はこれまでに閲覧回数1,114万回を突破。その結果、雑誌やWebにアクセスした観光客が自然に「香楽川行」ツアーを再現するようになり、彼らが自らその魅力をSNSで拡散するという真の口コミPRが実現した。さらに2016年5月には、 PRの集大成として、中国最大のアートフェスタに日本地方自治体として初めて参加した。ブース来場者は8,000人を超え、その様子は中国最大の国営放送CCTVでも紹介されるなど様々な反響を呼び、「KAGAWA」の認知度は大幅にアップしてきている。
 もちろん最適なPRの方法は、個々のケースで異なってくる。ただ、私が中国から見ていると、製品やサービスは本当に素晴らしいのに、それをうまく中国の人たちに伝えられていない日本企業が非常に多い。「日本ではこれでうまくいった」という考え方は、中国では通用しない。今のブランドをいったん忘れて、ターゲットをしっかり見定めたうえで、中国人に寄り添った目線でブランドを組み直していただきたい。自信をもってアクションを起こせば、インバウンド消費はまだまだ伸びる可能性が十分にあると思う。