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下地 寛也(しもじ かんや) :
コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント
エスケイブレイン 代表

1969年神戸市生まれ。1992年文房具・オフィス家具メーカーのコクヨに入社。デスクや会議室の配置などの「分け方」を研究したことをきっかけに、社会のさまざまなコト、モノ、サービスの「使いにくい」「わかりにくい」といった問題点は「分け方」で「しやすい」に変えることができるという提案を行うようになる。著書に『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)、『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)などがある。

わかりにくい説明、使いにくい道具、見にくいデザインなど、「しにくい」が巷に溢れている。「しやすい」が増えればあらゆるものが効率よく、スムーズに進む。“分け方"を変えることで、「しにくい」を「しやすい」に変え、ビジネスを成功に導く「分け方の技術」を紹介する。

日常に溢れる 「しにくい」の数々

 私はよくスーパーで惣菜を買うのだが、惣菜選びはなかなかに難しい。スーパーのエリア分けは野菜→魚→肉→卵・乳製品→惣菜の並びになっていることが多く、全てが最後の惣菜エリアにあればいいのだが、魚エリアに焼き魚が、肉エリアにレバーの炒め物やチャーシューがあり、最後の惣菜エリアにもコロッケや唐揚げ、煮物などがたくさん並んでいてベストな惣菜を「選びにくい」(図1-例1)。1カ所にまとめてほしいと思うが、似たような配置のスーパーは多いのではないだろうか。
 同じように、書店に行くと単行本はビジネス、文学、趣味などと目的別にコーナーが分かれているが、新書や文庫は出版社別に並んでいて、これまた非常に自分の興味がある本を「探しにくい」(図1-例2)。
 なぜそうなっているのかを想像すると、スーパーの惣菜は担当者が魚と肉と揚げ物で違うのだろう(鮮魚の横に焼き魚があるほうがおいしそうに見える効果もあるが)。新書や文庫の並びは各出版社が棚を確保したいという思惑があり、お客の立場からするとイマイチな分け方になっている。
 このような選びにくい、探しにくいといった「しにくい」は日常に溢れている。テレビのリモコンは、いろんな機能をすべて詰め込んだ結果、ボタンが多すぎて「使いにくい」。オシャレなカフェやレストランの看板やサインは、デザイン性を重視してカッコイイ英文字がちりばめてあるが、日本語表記がなく何がどこにあるのか「わかりにくい」。
 似たようなことは会社の中でもあるだろう。オフィスのレイアウトは他部署の人とコミュニケーションが「取りにくい」。経費処理、顧客管理システムは、入力のしかたが複雑で「わかりにくい」などなど……。
 こうした「しにくい」は日常にたくさんあるが、多くの人は当たり前に感じてしまい諦めているようだ。

目的に合った「分け方」で 「しやすい」をつくる

 では「しにくい」を「しやすい」に変えるにはどうすればいいのか? それは「分け方」を変えるということだ。
 かつてトヨタの車種は、一般社員はカローラ、主任はコロナ、課長はマークⅡ、部長はクラウンというように「役職」で分けられていた。自分の立場に合わせて車を選ぶのが「わかりやすい」ということだった。ところが価値観が多様化し、その分け方では車は売れなくなった。結果、今では「ライフスタイル」に合わせて車を選ぶ方が「わかりやすい」。町中での移動中心であればコンパクトカー、ファミリーで利用するにはミニバン、アウトドア派であればSUVというように。トヨタも車の分け方を変えたわけだ(図2-例1)。
 伊勢丹新宿店メンズ館は売場をブランド別からスタイル別に再編した。メーカーからの抵抗はあったが、顧客が異なるブランドの商品を比較できるようになり「選びやすさ」が向上。結果的には多くのブランドの売上増につながった。
 ここで皆さんに考えてほしいことは「目的」に合った「分け方」になっているかを確認するということだ。車選びでは「役職」から「ライフスタイル」に合わせるという目的に変わり、伊勢丹メンズ館の配置は「メーカー側の商品の扱いやすさ」から「顧客側の選びやすさ」という目的に変わった。時代の変化や周囲の反対に負けずに目的に合った分け方を実現することが大切である。特に誰にとっての目的で分け方を見直すのかを意識するべきだ。
 この発想を持つと、例えば「料理本」も一般的な「和・洋・中」「肉・魚・野菜」という分け方を「料理時間」「人数」「健康」など新しい目的で作れないだろうかと考えられる。以前、出版プロデューサーの土井英司氏が「これからは新しいカテゴリーをつくることが大切になる」 と言っていた。たとえば、お酒であれば「どんなビール、ワインをつくろう」ではなく、「ビール、ワインと並ぶ新しいカテゴリーのアルコールをつくろう」とすべきだと。これも分け方を大きな視点でとらえるモノの見方だろう。

従来の常識を疑い 「分け方」を変える

 「分け方」を変えてビジネスを成功に導いた例をもう少し見てみよう。
 ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)は、映画ファンを引きつけるために館内の区画を映画の名シーンごとに分けていた。ところが映画ファンだけでは集客力が下がってきたということになり、ファミリー客を引きつけることができる各世代の推しキャラ(ハローキティ、セサミストリート、ポケモンなど)を活用して再配分したことが復活のポイントだ(図2-例2)。
 「アリエール」の洗剤『ジェルボール』は、1回分が水溶性の袋に分けられている商品だ。洗剤を量って入れるという「それくらい手間ではないのでは?」と思えるようなことをも省いたことで、若い世代に売れている。森永乳業の『切れてるチーズ』は、チーズを切るという面倒な作業を省くことで大ヒットして、わずか数年間で切れていないチーズより売れるようになった。商品の機能や味といった本質的な価値を変えなくても、ただ分け方を変えるだけで「使いやすい」を実現して売れたわけだ。
 「デアゴスティーニ」は、完成した模型や部品を一括で販売するのではなく、毎月、少しずつ部品を分けて販売して徐々に組み立てていく楽しみを消費者に提供している。分けることで気軽に買いやすいしくみをつくった好事例だ。
 こうした例からもわかるように、「買いやすい」「選びやすい」「使いやすい」は、従来の常識を疑い「分け方」を変えることで実現できる。

「分け方」の目的を自分視点から相手視点へ

 「分ける技術」は、社内のコミュニケーションも「しやすく」できる。たとえば頼みごとを例にして考えてみよう。
 ただ思いつくままに、頼みたいことを言う場合、「来週から、業務効率化プロジェクトを始めるのですがAさんにリーダーをお願いしたいんです。3カ月という期限でメンバーは3人。分担して業務効率化の企画をまとめてほしいんですけど、お願いできますか」という感じになるだろう。たしかに何をいつまでにして成果物は何なのかは理解できる。しかしながら「なぜ私なの?」「やる意味はあるの?」などと相手は思ってしまうだろう。
 そこで、お勧めしたいのは頼みごとを4つに分けて考えておく方法だ。その4つは「①具体的な内容」「②目的、背景」「③具体的なやり方」「④なぜ、あなたなのか」だ(図3)。
①来週から業務効率化プロジェクトを始めるのですがAさんにリーダーをお願いしたいんです。3カ月という期限でメンバーは3人。分担して業務効率化の企画をまとめてほしいんです。
②背景として業績不振があり、赤字回避のためコストダウンを実現することが目的です。
③具体的には各部門の残業時間を調べて削減する方法を模索してほしいです。
④なぜ、Aさんに頼みたいかというと、実は、部長がAさんの日頃の分析力、発想力を見ていて推薦したという経緯があります。私としてもAさんの成長の機会になるのではと思っています。
 このように頼まれると相手も納得しやすくなるだろう。
 伝える内容を自分が思いつくままに話すのではなく、相手視点に立って分けて準備しておく。それだけでコミュニケーションも円滑に進む。
 会議でもプレゼンでも、のんべんだらりと臨むのではなく、どのように時間を分けて議論するのか、説明するのかを考えておくとスムーズに進みやすい。時間を3つに分けて「初め」「中盤」「終わり」に何を話すのかくらいを考えておくといいだろう。
 「分け方」を変えることで「しやすい」をつくりだす。その本質は「自分視点」の目的から「相手視点」の目的に切り替えて「分け方」を見直すことにある。皆さんが取り組んでいるビジネスや仕事において「しにくい」と感じることがあれば、まずは相手視点の目的を達成するにはどう分ければいいのかを考えてみてほしい。