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インバウンド研究会

第5期インバウンド研究会

2023年10月から2024年3月にかけて開催

第5期では「Afterコロナの新しいインバウンド環境の再構築に向けた情報発信」を検証しました。
「中国人生活者視点の製品PRポイントの発見と発信」「他国とは異なる、日本の一般消費財の特色の発見(企業、商品の歴史や商品開発、品質、衛生へのこだわり)」について、業界全体での情報発信を通じ「日本製品の良さ」を中国在住生活者の皆様にお届けしました。

第5期インバウンド研究会 参加企業(9社、企業名は五十音順に記載)
エステー株式会社、大島椿株式会社、小林製薬株式会社、コーセーコスメポート株式会社、サンスター株式会社、大日本除虫菊株式会社、
田辺三菱製薬株式会社、丸紅食料株式会社、ライオン株式会社

【 第5期研究会の活動 】

1.スケジュール

・2023年11月 
 オリエンテーション
・2023年11月~12月 
 クチコミ投稿対象商品の選出、企画LP(ランディングページ)制作、在日KOCの募集
・2024年1月~3月 
 在日KOCによる商品体験・施設見学&座談会・クチコミ投稿
・2024年3月 
 全体まとめ(クチコミ施策結果報告)

■「KOC」とは、「KOC」と「KOL」の違いについて


 KOCは、自分が体験した商品やサービスに対するレビューをありのままに発信し、口コミを発信する影響力が高い消費者。KOLのように多数のフォロワーを抱えることではなく、自分の周りの一般ユーザーに影響を与えることがポイント。感想をありのままで発信し、信憑性も高い。プロモーションの際には多数のKOCを起用し、そのKOC達の裏にいる多数の消費者へ情報発信を行う。

 KOLは、SNS上で特定の分野において影響力のあるインフルエンサー。KOLの発言を信じ、応援するフォロワーが多く存在する。プロモーションのプロでもあるため、プロや専門家の角度から商品のアドバイスやおすすめができる。プロモーションの際には1名や少人数のKOLを起用し、KOLのフォロワーへ情報発信を行う。

※ 景品表示法(ステマ規制)への対応
本研究会では、TATAMI合同会社のKOCを活用します。
同社は2023年10月より施行された、いわゆる「ステマ規制」に対して、消費者庁と調整し対応しています。



2.本研究会で実施した2つの活動

(a)クチコミ投稿対象商品の選出、企画LP(ランディングページ)制作、在日KOCの募集
・日本在住のKOCが、各社の新製品やこれから売り出したい製品を体験。利用した感想や体験を中国SNSへ投稿。
・指定した商品を店頭で購入するところからレポートしてもらうことで、旅中での商品入手に関する情報発信に期待。

【ポイント】
・中国の生活者をよく理解している在日KOCならではのPR上の強みを発見できる。
・KOCとつながる「日本製品に興味、関心の高い層」への情報発信ができる。

クチコミ投稿対象商品:16SKU







 
(b)在日KOCによる商品体験・施設見学&座談会・クチコミ投稿
・研究会参加メーカーの見学可能な施設に在日KOCを派遣。
・施設見学を通じて、「日本メーカーのこだわり」「利用している商品のTips」などを体験し、中国の生活者に向けて、口コミを投稿。

【ポイント】
・日本の日用品、化粧品業界における安全や衛生へのこだわりや考え方を「日本製品に興味、関心の高い層」に届け、より高いエンゲージメントにつなげる。


3.本研究会で得られた知見

■株式会社BRAND JAPAN 取締役副社長 孫 守奇氏 談話
●特集記事やビフォーアフターなど、工夫を凝らしたKOCの投稿
 今回、TATAMIのKOCのプロモーションを担当させていただきました。実施結果を報告いたします。
 KOCとは、KOL(インフルエンサー)ほどフォロワー数が多くないものの、積極的に口コミを投稿する消費者のことです。今回は32人の在日KOCが参加し、8社16SKUの商品を体験しました。1人のKOCが3SKUを体験するので、1SKUにつき6人のKOCが体験・投稿をすることになります。投稿するプラットフォームは中国版インスタグラムのREDです。

 KOCの投稿に関して、以下のような知見が得られました。
 ・「お母さんに贈るプレゼント特集」など、消費者目線で書いた特集記事は反応が良かった
 ・商品によっては、使用前後のビフォーアフターを示す投稿も効果があった
 ・「ドラッグストアのいいものリスト」のような形で、ほかの商品とあわせて紹介する投稿はPV数が伸びた
 ・長く使っているような使用感があるコンテンツは信憑性が出る
 ・「日本に10年住んでいる私がおすすめする」など、KOCの属性によっても説得力が生まれる
 ・具体的にどのような環境やシーンで使ったかを説明すると、ニーズを引き出すことができる
 ・買える場所や買ったシーンを紹介する投稿も反応が良かった
 ・薬品の表現は難しい部分もあるが、商品や会社のコンセプトを紹介することで信頼性を高められる
 ・中国で少しずつ防災意識が高まっており、非常食も反応が良かった
 ・ポーチの中に入れた写真で持ち運びやすさをアピールするなど、工夫した投稿が見られた

施設見学を通じて企業・商品への愛着を深める

 田辺三菱製薬様とエステー様ではKOCの施設見学も実施しました。
 田辺三菱製薬様からは企業コンセプトやものづくりの想いについて話をしていただき、資料館の見学も行いました。KOCからは「対応してくれる皆さんが会社のことを誇りに思っていることに感心した」といった感想や、「商品名に中国語の読み方がないと中国人同士で情報共有しづらい」という意見などが寄せられました。
 エステー様ではアットホームな座談会の形で商品の紹介などをしていただき、コミュニケーションの多い見学会だったので参加したKOC同士が仲良くなったりもしました。「担当者と直接話せることに見学の価値を感じた、楽しかった」「社員が明るく話しやすいので、こんな身近な商品が作れるのだと思った」などの感想が寄せられました。



●口コミとオフィシャル情報はどちらも重要
 KOCの口コミのようなUGC(User Generated Contents=ユーザーが作ったコンテンツ)は、OGC(Official Generated Contents=企業や団体が作ったオフィシャルなコンテンツ)と同時に発信することでより効果を持ちます。広告などのOGCで商品に関心を持った消費者が口コミを検索しても、口コミが見つからなければ実際に使っている人がいないのではないかと不安になります。逆にUGCで関心を持った消費者がオフィシャル情報を検索した際に、中国人が見てわかる情報がない場合も不安を感じます。中国人向けの施策を本格的に行うなら、オフィシャルコンテンツは不可欠になります。
 KOCの口コミ、SNS広告、KOL施策にはそれぞれ違う効果があります。今回実施したKOCの口コミはコンテンツの数が重要です。SNS広告はどちらかというとオフィシャル感を重視する時に使います。KOLはインフルエンサーなので、例えばコスメ系のKOLに宣伝してもらえば、同じ特性のフォロワーに訴求することができます。目的によって選ぶ手法が違うのです。
 KOCの投稿は、特に薬品などの効果について明らかに違った表現がされている場合は、訂正依頼をすることも必要です。たとえば炎症効果がないのに「ある」と書かれていた場合、炎症については触れないでほしいと伝えるとよいでしょう。メーカー側から具体的な修正案を提示するのは避けたほうがよいと思います。

参加者の声

 (本研究会で得られた知見)
・口コミを集めることは課題だと感じていたので、生の声が得られて参考になった
・中国の方が見てわかるオフィシャルサイトの整備が課題だと気づいた
・違う業種の事例も見ることができ、貴重な体験になった
・写真で伝えられる情報量の多さや、消費者視点だからこそできる表現の強さを改めて実感した
・自社の商品がどう見られているかが投稿からわかり、勉強になった
・口コミが大事なのは海外も日本も同じなので、日本のSNSにも応用して、インバウンドで成果を出しつつ国内の売上も一緒に上げていきたい
・施設見学では、一般消費者に近いKOCから率直な意見が聞けて、自社の課題が明らかになった



4.まとめ

■一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 神林 淳氏 談話
●「欧米が増加」「地方が活況」は本当か?
 2024年1月の訪日外客数(日本政府観光局調べ)は268万8100人で、2019年比100.0%となりました。2023年通年では2506万6100人であり、過去最多だった2019年の78.6%まで回復しています。中国人客数の回復率が25.3%にとどまっていることを考慮すると、全体としては驚異的な回復であると言えます。
 コロナ後、日本の水際措置が緩和されたのは2022年10月で、他国より遅れましたが、直近では観光産業が盛んなほかの国を上回る回復水準になっており、訪問先としての日本の魅力を示しています。訪日旅行者一人あたりの消費単価は、「リベンジ消費」で2023年第1四半期に2019年比1.41倍となった後、第3四半期に1.29倍、第4四半期に1.28倍と高水準を維持しています。これは、欧米からの長期滞在客の宿泊費などが含まれていることも一因と考えられます。
 欧米からの観光客が増えていると言われますが、この1年ほどの国・地域別外客数を2019年比で見ると、欧州・北欧は100%を割っている月も多く、イメージほど増えてはいません。ただし北米やオーストラリアは120~140%と大きく伸びています。一方で東アジアは、2024年1月には韓国、香港、台湾が110~120%台、回復が遅れている中国も順調な上昇傾向にあります。東南アジア諸国も安定してほぼ100%を超えています。
 また、大都市圏より地方に行く外国人観光客が増えているとも言われています。しかしデータを見ると宿泊客数はむしろ三大都市圏のほうが伸びており、久しぶりの来日でまずは東京や大阪に行きたいというニーズや、地方便の就航が遅れたことが原因とみられます。航空便の整備や政府の振興策により地方への誘致が進むのは、これからと考えられます。

●口コミが訪問先を選ぶ決め手に
 外国人ゲストが訪日前に重視する情報源は劇的に変化しており、ガイドブックや旅行専門誌から、口コミサイト、動画サイト、SNS、ブログなど、旅行をした個人がオンラインで発信する感想・意見へ移っています。欧米市場ではトリップアドバイザー、中国では大衆点評という口コミサイトがよく見られています。
 訪日客には口コミやレビューをお願いすることが大事です。品揃えや品質、店員の知識・提案力、サービスなどで満足度の高いショッピング体験を提供できれば、いい思いをした人はすぐに自分のデバイスを使って評価をしたがるものです。そうすることで、広告を出さなくても訪日前・訪日中の外国人に情報を届けられます。
 グーグルマップもオンラインで口コミを促進するツールとして手軽に活用できます。グーグルマップは多くの人が利用しており、口コミも参照されて、その店・施設に行くかどうかの大きな決め手になっています。グーグルビジネスプロフィールには無料で登録でき、自分の店・施設がマップ上に表示されるようにすることが可能です。
 たくさんの記事や投稿を集めることが重要であり、そのための施策として今回はKOCの活用を研究しました。

■株式会社BRAND JAPAN 代表取締役社長 李 思萱氏 談話
●SNSが観光地の人気に影響
 中国経済は減速しているとも報道されていますが、今年の春節旅行消費市場は活況を呈しています。1月26日~3月5日の春節期間における合計移動延べ人数は90億人超。2月10~17日の春節休み期間で見ると、国内旅行者が延べ4.74億人(2019年同期比19%増)、国内旅行消費額が6326.87億元(約13.18兆円、同7.7%増)で、コロナ前の水準以上に上昇しています。急速な旅行市場の回復に交通網の整備が追いつかず、春節休みの終了間際には旅行先から戻る飛行機のチケットが取りにくい事態にもなりました。これは、旅行者の意思決定期間が短くなり、旅行の直前にチケットなどを手配するようになっていることも一因と考えられます。
 国内旅行では、「南北交換」と言われるように、南に住む人は北へ、北に住む人は南へ――つまり寒いところから暖かいところへ、暖かいところから寒いところへ出かける旅行が人気でした。また、「シティウォーク」のスタイルがはやっており、買い物だけでなく朝市場や現地民俗文化の体験など、地元の人たちの暮らし方を楽しみたいというニーズがあります。旅行先として、東北ではハルビンが人気で、現地の親切な対応がSNSで好感を呼び、ハルビンの観光局も「ここにベンチが欲しい」「この商業施設に○○が足りない」といったコメントを拾って対応するなど、SNSをうまく活用しています。また、お寺に行く若い人が増えているのも、コロナ以来近年の傾向です。

●海外旅行は2024年末までに8割回復の見通し
 春節には「年貨(年賀土産)」としてプレゼントを贈る文化があります。今年は「デジタル」「健康」「省エネ」が三大消費テーマになりました。実家の親にロボット掃除機やスマート家電をあげたり、フードロスへの意識の高まりから小分けの正月料理が好まれたりといった傾向が見られます。
 各ECプラットフォームも買い物クーポン、割引などの販促策を打ち出しました。遠方にいて会えない家族や友人との集合写真をAI技術で生成するといったキャンペーンもあり、全国ECの春節用商品の販売額は8,000億元(約16.67兆円)を超える見込みです。
 海南島の免税店は好調が続いており、1月26日~2月9日の免税売上は22.6億元 (約471.9億円)と、前年同期比4.3倍になりました。おもに買われているのは化粧品であり、これが日本のインバウンド市場における化粧品の売上減の一因になっていると考えられます。
 春節休み期間の海外旅行者数は延べ360万人で、2019年同期の約6割まで回復しています。団体旅行はタイ、マレーシア、シンガポールなどのビザ免除国が人気です。シンガポール旅行は伸びていますが、SNSでは些細なことでの罰金や高い物価への不満が多く、「二度と来たくない」という口コミも見られます。
 国際線の便数は、中国政府の発表では2024年末までに2019年の8割以上まで回復すると予測されています。チケット代も現在は高騰していますが、年末までには落ち着くとみられます。年間の海外旅行者も2019年の8割となる1.3億人まで回復すると予測され、旅行者の65%がアジアへの旅行を予定しています。旅行先として日本の人気は根強く、現地旅行会社によると訪日ビザの申請はたいへん混雑しているそうです。

■株式会社プラネット 執行役員 イノベーション推進部長 今村 佳嗣 コメント
 今期も皆様のおかげで、無事に研究会を終えることができました。感謝申し上げます。
 インバウンドの流れはとても速く、2年前はKOLについての取り組みを行っていたのが今はKOCになり、来年はまた別の何かになるかもしれません。
 個々のメーカーでそれぞれの戦略があると思いますが、業界としてインバウンドという新しいマーケットを作っていくことが大事だと考えています。「日本の日用品や化粧品はいいから、日本に来たらこの商品を買って帰ろう」「あの人が使っていたものを買って帰ろう」ということが日常的になれば、マーケットが大きくなっていくでしょう。
 この研究会の意義は、参加者同士の情報交換です。実践をしながら、「あのメーカーさんがこんな取り組みをして成功した」「うまくいかなかった」ということを最後に情報交換し合うことが、いちばん大事だと思っています。コロナ禍がようやく収まりつつあり、このように集まって皆さんとお話しできる機会が設けられたことを何より嬉しく思います。情報交換をから生まれた新しいアイデアや、こんな研究をやってみたいということがあれば、どんどん実践していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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