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インバウンドセミナー

『インバウンド消費の現実を知ろう!~訪日客4,000万人時代の幕開け~』

2017年6月21日(水)、日比谷図書文化館にて、昨年に続いて2回目となるインバウンド消費に関するセミナー『インバウンド消費の現実を知ろう!~訪日客4,000万人時代の幕開け~』が開催され、消費財メーカーや卸売業を中心とする92名の方々にご来場いただいた。当日は、一般社団法人東北インアウトバウンド連合理事長の西谷雷佐氏、一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事 事務局長の新津研一氏の両氏による講演と、2016年8月から2017年3月まで開催された「プラネットインバウンド研究会」の活動報告が行われた。今回、当ページでは、西谷氏と新津氏の講演抄録を紹介する。

インバウンド担当者が知っておきたいウソ・ホント

一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事 事務局長
株式会社USPジャパン 代表取締役社長
新津 研一 氏

(PLANET vanvan 2017年秋号(Vol.116)掲載記事より)PDF PDF版 (2.16MB)

陥りやすいデータの罠

 昨年、私はこのセミナーで講演し、そのご縁でプラネットのインバウンド研究会のコーディネートをさせていただいている。今回は、データを見ながらインバウンドについて考えるという新しいアプローチをしてみたい。
 世界で海外旅行を楽しむ人の数は、毎年4%ほど伸びていて、2016年に12億人を突破した。その中で日本の状況を見てみると、2016年の訪日ゲストの客数は2,404万人(22%増)で、2017年は2,800万人ぐらいまで増えると予想されている。消費総額は3.75兆円と、2015年に比べて7.8%(2,700億円)伸びているが、ショッピング消費額については1.43兆円と1.9%(278億円)減だったため、ブームの終焉といった論調で取り上げる報道が少なからず見受けられた。
 こうしたインバウンドに関するデータを見る時、気をつけないと間違った答えを導きかねないポイントがある。インバウンドのデータで陥りやすい代表的な三つの罠として、分母の変化、為替レート、そして調査方法について、具体的に見ていきたい。


分母の変化、特にシェアと伸長率に注意

 2013年と2016年の国・地域別訪日客数と、そのうちの団体旅行のシェアと人数のデータによれば、2013年には、訪日旅行客の1位は韓国、2位が台湾、3位が中国だったが、2016年には中国が1位になり、2位韓国、3位台湾と順位が変わった。(表1)



 これを受けて、中国の訪日客だけが急激に増えたように報じられた。
 しかしよく数字を見ると、中国のお客様は確かに131万人から637万人に増えているが、韓国も245万人が509万人に、台湾も221万人が417万人に増えている。つまり中国の訪日客だけが増加したのではなく、韓国のお客様も台湾のお客様も増えていて、中国のお客様の増え方が特に大きかった、ということになる。
 また、インバウンドは団体旅行から個人旅行にシフトしていると言われる。実際、団体旅行のシェアは25%から21%に減っているが、人数で見ると260万人から505万人に増えている。団体旅行も個人旅行も共に増えていて、伸び率がより高いのが個人旅行ということなのだ。
 同様に、モノからコトへ消費の対象が変わったという話も、要注意だ。2016年のショッピング消費総額は1兆4,261億円で、2015年の1兆4,539億円から1.9%減っている。一方、いわゆる「コト消費」にあたる娯楽サービス費は前年比で7.4%伸びているものの、金額は1,136億円で、消費額の全体に占める比率は3%に過ぎない。モノ消費がなくなって、コト消費が爆発的に増えているわけではないのだ。今も訪日外国人の消費の約4割をショッピング、2割強を飲食が占めているので、訪日外国人を誘致する上で、ショッピングとグルメは絶対に外せない要素だ。(表2)


民間にあるデータの活用

 一方で民間レベルでは、いろいろなデータが取れるようになってきている。たとえば免税書類には、販売した免税店の情報、販売した商品の情報、購入者の情報、日時を記入する欄がある。このデータを活用して、国籍別の時間帯別の免税係数の割合を出し、それに合わせて出勤シフトを変えている会社もある。
 スマートフォンから得られる位置情報と、SNSの情報を分析して提供しているサイトもある。どこの国の人が、いつどこへ行ったかといった情報は無料で見られる。これにSNSの情報が加わると、どのエリアでどういう写真がSNSにアップされたかもわかる。皆さんの商品の話題が、どこでつぶやかれているのかといった傾向も見えてくるだろう。
 私はショッピングの情報を翻訳して外国人向けに発信しているが、6割の方が日本でそのサイトを見ている。日本へ来てから、明日どこへ行って何を買おうかと検索するのだ。しかも検索欄には、非常に具体的なピンポイントのキーワードを入れている。訪日客は、日本で自分が買いたい商品が決まっていて、それをネットで検索する機会が非常に多い。そうすると、Webサイトの解析やスマホの位置情報から逆引きして、お客様がどうやって自社の商品にたどりついたのか見えるかもしれない。株式会社True Data(旧カスタマー・コミュニケーションズ(株))の「インバウンド消費実売動向レポート」はPOSデータから抽出した商品の売れ筋ランキングで、これもうまく活用できるだろう。
 このように、皆さんが手に入れられるミクロの情報はたくさんある。マクロの情報はまだ精度が低いので、そこを精緻に分析しても真実にたどりつけない。マクロとミクロの両方をバランス良く見ていくことが重要だ。


訪日ゲストのホントを知るには

 訪日外国人のお客様には、外国人としての特性と、旅行者としての行動・消費特性がある。そこに着目すれば、日本人のお客様よりセグメントはしやすい。
 まず、外国人観光客に近付いて、相手を知ることが、インバウンド対応の第一歩だ。一番良いのは、外国人と家族や同僚になることだが、道に迷っている訪日外国人に一声かけるだけでもいい。あるいは自分自身が海外旅行に行くことで、旅行者の気持ちがわかるだろう。それもできない方は、日本で最もインバウンドに成功している大阪の黒門市場に行ってみるといい。外国人旅行者がどういう行動をして、町の商店街の人たちがどんな対応をしているのか、インバウンドの実態を見ることができるだろう。
 どうやって訪日外国人のお客様を増やし、商品を買ってもらうか。その切り口は無限にある。ただし一つ言えるのは、訪日外国人は、知らないもの、わからないものは買わないということだ。そのためにはまず自己紹介をして、自分の会社や商品を知ってもらわなければいけない。
 皆さんは自分の会社や商品の特徴をよくご存じだろう。でも、別の人から見たら、埋もれている魅力があるかもしれない。もう一度、自分たちが売りたいものをよく見つめ直してほしい。そして売りになるポイントやキーワードを掘り起こし、再発見して、それをお客様にストレートに伝えなければいけない。当たり前過ぎて言わないようなことを、しっかり言葉やビジュアルにして伝えることが重要だ。
 訪日ゲストを大好きになること、自分の会社・商品あるいは街や店を見つめ直すこと。この両輪をうまく回すことが、インバウンド向けビジネスの成功のポイントだと私は考えている。今はまだ日本では、ほとんどの会社がインバウンドに関して何も対応できていない。成功事例や失敗事例を共有しても、何の損もない状態だ。皆さんが持つリアルなデータを見せ合い、他のデータを読み解きながらアプローチしていかないと、海外のインバウンド先進国にはとても勝てない。もしご興味があれば、インバウンド研究会にぜひ参加して、さまざまな企業と情報交換し、訪日外国人と交流を深めて、インバウンドの真実を一緒に体験していただきたい。