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HOME > 知る・役立つ・参加する > 広報誌 Planet VAN VAN > 2026 Summer Vol.151 > 進化するAIと企業戦略 前編

株式会社インテック 
広域IT第1事業本部 社会基盤事業部 
社会基盤事業戦略統括部 
シニアハイエンドスペシャリスト
辻本 元春

生成AIの登場は企業のDXを新たな段階に押し上げた。従来のITツールに比べて機能や使いやすさが飛躍的に高まり、活用次第でDX推進の強力な味方となる。一方、生成AIは機能の幅広さ・高度さゆえに、使いこなすには一定の知見やノウハウが求められる。企業はどのように活用すればよいのか。多様な業種で生成AI導入を支援してきた、株式会社インテックのシニアハイエンドスペシャリスト・辻本元春氏に解説していただく。
※本記事は取材時(2026年4月)の情報をもとに作成しています

トップの理解と社内体制整備が重要 AIは手段、目的はDX

 ChatGPTの登場で生成AIへの注目が高まってから約3年が経過し、企業間で取り組みの差が広がりつつある。早期に生成AIを導入し、課題に直面しては乗り越えるというサイクルを何度も繰り返して活用を進めている企業もあれば、導入したものの十分な効果を得られていない企業、未導入の企業もある。
 生成AI導入に成功している企業の傾向として、①経営層の深い理解に基づくトップダウンの推進、②適切なユースケース(利用事例)の設定、③徹底したモニタリングによるガバナンス(不適切利用の防止環境)の構築、などの要素が挙げられる。
 また、DX推進に取り組む専門の部署を設けていることも成功する企業に見られる共通点だ。後述するように、生成AIは部署ごとの業務や目的に合ったものを使うほうがよい。そのため、全社共通のグループウェアなどを整備・管理する従来型のシステム部門では、個々の現場の細かなニーズに対応するには人手や予算が足りないことが多い。
 生成AIを活用したDXに取り組むには体制の整備が必要であり、そのためにもトップの理解は重要だ。
 対照的に生成AIを導入したものの成果が上がっていない企業では、①経営層の関与・理解不足、②具体的なユースケースの未設定、③社員のAIリテラシー不足、といった傾向がある(図表1)。また、そもそも生成AIが扱えるようなデータが未整備という場合もある。
 改めて押さえておきたいのは、「AIは手段であり、目的はそれを使った生産性改善や業績向上といったDXの実現にある」という点だ。
 どんな場面で生成AIを使い、どのような目標を達成するかが明確になっていなければ、生成AIを使おうという社員のモチベーションも上がっていかない。
 社員のリテラシーやモチベーションという点では、若手のほうが利用に積極的で、管理職以上のベテラン社員が従来のやり方にこだわるために活用率が伸びないというケースも多い。上層部の理解を深め、組織全体への浸透を加速させるには、役員や管理職を対象とした研修を行うと効果的だ。

生成AIとの対話で企業戦略を検討 データ可視化に役立つツールも登場

 生成AIをどのような業務に活用できるか、具体例を紹介する。一つ目は実際に私が担当した、化粧品メーカーの社内研修で試行した事例だ。
 生成AIにはRAG(ラグ)※1と呼ばれる機能があり、独自の外部データを生成AIにインプットすることで、学習済みのデータに加えてそれらを参照させることができる。
 この研修ではPOSなどの定量データや中期計画、お客様の声といった定性データを学習させた生成AIと対話しながらブランドの拡販戦略を立案した。なお、ここで問題解決の手法として採用したのは、「ロジックツリー」、「なぜなぜ分析」などの古典的なフレームワークであり、通常は人間が考えるプロセスに生成AIを参加させた。
 これらの手法に生成AIを使うメリットは、ファクトやデータから客観的な回答が得られることだ。社員や外部のコンサルタントであれば忖度が働いたり本人が持っているバイアスが入ってしまったりするリスクがあるが、生成AIに答えさせることで通常では上がってこないようなアイデアや指摘も期待できる。
 また、このときは社内データのみを使用したが、外部のAPI※2を通じてSNS上の声などを連携すれば、らに広範囲かつ鮮度の高い情報を参照させることも可能になる。
 二つ目は地方銀行での導入事例だ。この1~2年ほどでデータ分析ツールに生成AIを連携させたサービスが増えており、代表的なものとしては、Snowflake(スノーフレーク)、Databricks(データブリックス)、Microsoft Fabric(ファブリック)などがある。
 これらを使えば、会話形式による指示でレポートやダッシュボードを作成できる。たとえば「取引先A社の昨年の実績を見せて」と指示すると、あらかじめ集約されているデータの中から該当するデータが抽出・分析され、グラフなどの形で可視化される。
 従来、こうしたデータレポートを作成するには高度な専門知識が必要で、アナリストなどに依頼しなくてはならず、作成にも時間がかかっていた。これがチャットによる指示で実現できるようになれば、誰でも手軽に、よりタイムリーで個々のニーズに合ったレポートが作成できるようになる。
※1 RAG:Retrieval-Augmented Generation(検索拡張生成)
※2 API:Application Programming Interface。異なるアプリやシステムなどの間で、データや機能を共有する仕組み

業務・目的に合わせて SaaS型、専用環境型を使い分ける

 生成AIの利用形態には大きく分けて「専用環境型」と「SaaS型※3」がある。SaaS型は初期コストが少なくすぐに利用できるため、導入期の企業に向いている。専用環境型は自社に合ったものを使えるのがメリットだが、構築に数か月から半年を要し、初期コストやカスタマイズコストもかかる。そこで、まずはSaaS型で生成AIへの組織的な理解を深め、どのような生成AI環境が自社に必要かを分かったうえで専用環境型の構築へ進むのがよいだろう。なおコスト面では、専用環境型は従量課金、SaaS型はユーザーライセンス契約であることが多い。ユーザーライセンス料は一人あたりで見ると安くても、全社員分を契約したものの利用率は低いなど、場合によっては割高になってしまうリスクもあるので注意したい。
 また、生成AIは万能型と目的特化型という分け方もできる。万能型はさまざまなことができるが、どの機能も70点といったところで、より高度な業務応用を進めようとすれば目的の機能に特化した生成AIを使う必要がある。そのため、全社共通で使用できる万能型と並行して部署や組織のミッションに応じた目的特化型の異なる生成AIを使うほうがよい。たとえば、法務部門ではリーガルチェックに特化した生成AIを採用するといった使い分けだ。従来のグループウェアなどのITインフラは社内でツールが乱立すると管理しにくいため統一するほうがよかったが、生成AIに関してはその常識が当てはまらなくなっている。
 生成AIの用途によっては頻繁にアップデートやメンテナンスが必要になることも考慮すべきだ。法務部門であれば法律や制度の変更があった場合はデータ更新が必要になる。また、前述のデータ分析のような進展が著しい領域では、自社で専用環境を構築してもすぐに時代遅れになる恐れもある。
 一方、人事部門などで使用する生成AIは社内の制度が変わらない限りはそのまま使えるだろう。SaaS型は、自動でアップデートされるのでメンテナンスが不要というメリットもある。そのため、頻繁に更新が必要になると予測される領域についてはSaaS型を利用し、それ以外は専用環境型で部署や組織に合った環境を整えるという選択もあるだろう。
※3 SaaS:Software as a Service。インターネット経由でサービスが提供されるソフトウェア

セキュリティやデータガバナンスは 社内統一の基盤が必要

 前節で述べたことを具体的なツール・サービスに落とし込むと図表2のようになる。最初はChatGPTやGemini( ジェミニ) などの、対話形式で手軽に使える万能型の生成AIから始めるのがよく、図表の上に行くほど個別業務に特化したカスタマイズ型の生成AIになっている。
 マイクロソフトのツールを例にとると、Copilot(コパイロット)はチャットで対話できるので誰でも使いやすい。そこから一歩進んで自分の業務に特化した生成AIが欲しくなった場合は、Copilot StudioでAIエージェントを作成できる。AIエージェントとは、質問に回答を返すだけでなく、アプリなどと連携して特定の業務を利用者に代わって自律的に行ってくれる生成AIであり、プログラミングの知識がなくてもAIエージェントを構築できるツールの登場によって利用が広がっている。さらに高度なカスタマイズを行いたい場合には、Azure(アジュール)OpenAIという法人向けサービスで自社専用の環境を構築できる。


 このように個人や部署ごとにカスタマイズされた生成AIを使っていても、セキュリティ、データガバナンス、プライバシーといった根幹にかかわる部分は全社共通の統一基盤と、それらを推進する組織の存在が重要になる(図表3)。個別のAIエージェントが社内コンプライアンスから外れたふるまいをしないように監視・制御できるAgent 365という管理支援ツールなども提供されている。
 また、最近は若い世代がプライベートで生成AIを使うことが当たり前になっており、組織の承認を得ずに自分の判断でそれを業務でも使用する「シャドーAI」と言われる状況が顕在化しつつある。無償で使える生成AIの中には情報漏洩などの重大なインシデントにつながるものもあるため、個人任せにはせず、企業として安全に使用できる環境の構築や使用上のガイドラインの策定が求められる。

「生成AIは間違えるもの」 最終的な判断・責任は人間が担う

 最後に、生成AIを使ううえでの注意点も押さえておきたい。生成AIの機能の進化により、さまざまなことが人間の手を介さずにできるようになっている。たとえばAIエージェントに、届いたメールに対して自動で返信させることも技術的にはできる。しかし不適当な内容のメールを送ってしまう危険もあるため、メールの返信プロセスを部分的に自動化したとしても、最終的な「確定・送信」の判断は人間が下すべきだ。生成AIが担う業務がどれだけ増えても、最終的なガバナンスと責任が人間にあることは今後も変わらない。
 また、生成AIが間違った回答を返す「ハルシネーション」の課題も残っている。「生成AIは間違えるもの」という前提のもと、事実関係などは利用者がチェックする必要がある。とはいえ、デメリットばかりに目を向けて生成AIを活用しないのはもったいない。昨今はリモートワークの普及などにより、以前であればちょっとした情報やアイデアのヒントを求めて隣の席の同僚と交わしていたような会話がしにくくなっている。しかし生成AIなら、いつでも気兼ねなく聞くことができる。生成AIの特性と限界を理解したうえで、人間と生成AIが役割分担をしながらDXを進めていくことが重要になっている。