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HOME > 知る・役立つ・参加する > 広報誌 Planet VAN VAN > 2023 Summer Vol.139 > 日本の郷土玩具ばなし「キナキナとデグノボーこけし」

 ピンク色の鯉と子ども。お互いの身体が溶け合っているかのようなデフォルメされたフォルムがとても楽しい。沖縄県那覇市で作られる琉球張子の「鯉乗り童子」です。琉球張子がいつ作られるようになったのかはわかっていませんが、沖縄では古くから旧暦5月4日の「ユッカヌヒー(ゆっか=四日の日の意味)」には子どもの成長を願い、玩具を買い与える風習があり、琉球張子もその玩具のひとつでした。


 そんな琉球張子も大正末期には外国産の玩具に押されて廃絶し、かろうじて形が残っていたものも第二次世界大戦で姿を消してしまいました。しかし昭和27 年、時計店を営んでいた古倉保文こくらやすふみは、戦火で荒廃した沖縄の各地を訪ね、玩具を発掘し、かつての制作者を探し出して作り方を学び、文献を漁って色や形を調べ、やがて玩具作者になりました。古倉の熱意によって復活した琉球張子は、現在も2人の作り手に引き継がれています。


 琉球張子の特徴は、紅型びんがた※1、ミンサー織り、やちむん※2など、この地で作られる他の民藝品とも共通するおおらかさでしょう。明るいだけでない、特有の湿度を持った色使いはどこか異国的で、中国や近隣諸国からの空気も内包されているように感じます。今回描いた鯉乗り童子もまさにそうで、のんびりとしたおおらかさがあります。持ち上げるとヒレがゆらゆらと揺れ、その愉快さに思わず笑みがこぼれてしまいます。

※1 紅型:沖縄の伝統的な染色技法のひとつ  ※2 やちむん:沖縄の方言で「焼き物」のこと


佐々木一澄(ささきかずと)
1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。雑誌、書籍、絵本などの仕事を中心に活動。絵本作品に『からだあいうえお』(保育社)、『うみとりくのからだのはなし』(童心社)など。著書に『てのひらのえんぎもの』(二見書房)、『こけし図譜』(誠文堂新光社)。