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プラネットユーザー会2022

基調講演抄録

最大の生産性を上げる最高のチーム創り ~企業におけるパラダイムシフトの重要性~

プロノイア・グループ株式会社
代表取締役
ピョートル・フェリクス・グジバチ

ピョートル・フェリクス・グジバチ 氏

PROFILE
連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。モルガン・スタンレーを経て、Googleで人材開発、組織改革、リーダーシップ開発に従事。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。2022年からGA technologies社外取締役に就任。ベストセラー『ニューエリート グーグル流・新しい価値を生み出し世界を変える人たち』など著書多数。新著に『世界最高のコーチ』。ポーランド出身。

現代の組織では、価値観の異なる世代が一つのチームで働いている。そんなチームをまとめ上げて成果を出すには、どのようなマネジメントをすれば良いのか。グーグルなどを経て連続起業家として活躍するピョートル・フェリクス・グジバチ氏に、これから目指すべき組織のあり方を語っていただいた。

生活や仕事での選択が世界に及ぼす影響を考える

 私たちの日常の消費行動は、環境にさまざまな影響を及ぼしている。たとえば、健康診断で運動をするように言われてジョギングやヨガを始めることにする。そのためにスポーツウェアを買うが、ほとんどのスポーツウェアはポリエステル、つまりプラスチックでできている。プラスチックが分解されるのに何年かかるかの明確なエビデンスはないが、数百年とも言われる。沖縄のビーチには、台湾や韓国、タイなどのペットボトルがそのままの形で流れ着いている。
 また、自分が食べているものがどこから来ているか、考えていただきたい。アボカドはおいしくて栄養バランスも良いが、最近では「悪魔の果実」と呼ばれている。主産地のメキシコでは、栽培に大量の水を使うため砂漠化を引き起こしている。さらに利益が高いことから麻薬カルテルがアボカド農家を狙い、農家は銃を買って防衛するなど、「アボカド戦争」とも言える状況になっている。
 自分が生活や仕事上とっている選択が世界にどのような影響を与えているかを考え、その選択に責任を持つ必要がある。

世代ごとに価値観が異なっても人の本能は不変

 パラダイム(各時代に支配的な思考パターン)は変わっていくため、世代によって価値観が真逆になることがある。
 仕事においては、現代は少なくとも三つのパラダイムが併存している。一つ目は、1930年ごろから続いている、産業革命による集約労働のパラダイムだ。効率化を優先し、ひたすら手を動かして家族のために収入を得ることが美徳とされる。二つ目は1980年代以降の大量生産・大量消費社会だ。さきほど述べたような世界に与える影響を考えず、楽しいもの、おいしいもの、かっこいいものを自分のまわりに集めるのが美徳とされる。そして現在はそれらとは真逆の、社会起点・価値起点の考え方が広がっている。現実にあえて目を向けて、裏側で誰が苦労しているか、その仕組みがどう回っているかを考え、その解決に向き合うことが美徳とされる。SDGs、ESG投資がキーワードになり、社会に新しい価値や解決法をもたらすことが重視されるようになった。それはZ世代と呼ばれる10代~20代前半の人たちの世界中の平均的な考え方になっている。
 これらのパラダイムが組織の中に併存しているため、上司や部下と真逆の価値観を持ちながら働くことになる。たとえば残業が美徳と考える上司50代と、社会起点・価値起点で考える部下20代が同じ部屋で作業をしている。上司が部下に対して「あなたはもっと残業して、もっと我慢するべき」と必死に説明しても理解されない。あるいは部下が「もっと働きがいのある会社にしたい、ミッションを考えてほしい」と訴えても、上司はそれを理解できない。
 ただし、価値観が違っても共通点はある。私たちの本能として、希望や社会的承認、喜びを得ようと行動し、恐れや拒否されること、肉体的・精神的な痛みを避けようとするのは皆同じだ。会社の中では、メンバーが希望や承認、喜びを得られるような状況をつくることが大事で、それができなければ会社から去ってしまったり、やる気をなくしてしまう。

業界の非常識に気づき新しいマーケットをつくる

 新しい価値観に基づく会社もたくさん現れている。たとえば民泊サービスのエアビーアンドビーは、創業から5年ほどでハイアットという世界最大のホテル会社を時価総額で上回った。時価総額10億ドルを超える未上場のスタートアップ企業はユニコーンと呼ばれ、現在は世界に1300社ほどある。エアビーアンドビーや日本のメルカリなども、上場前はユニコーンだった。
 これらの企業には共通点がある。まず、一見理解できないようなアイデアをビジネスにする。フェイスブックなどのSNSで個人情報や自分の写真をネット上にアップしたり、エアビーアンドビーで個人宅に泊まったりするのは非常識に思えた。また、最初は収益化せずに人々の新しい行動パターンをつくろうとする点や、既存の競争に加わるのではなく自分たちの市場をつくる点も共通している。そして、どの企業も経験のない創業者によって創立されている。フェイスブックは学生、グーグルは大学院生、メルカリは異分野から来た人だった。経験がないから業界の非常識に気づき、新しいマーケットをつくれる。

鵜飼いから羊飼いへ変化するマネジメント

 新しいことを学ぶのは大事だが、学びほぐす、つまり時代遅れになったパラダイムによってしみついたバイアスを見直すことも必要だ。
 たとえば、会社はモノづくりやサービスの提供を⾏うだけのものだという考えは既に時代遅れで、仕組みやプラットフォームをつくり出すものだ。また、会社はお金を生み出すという常識も過去のもので、社会に価値をもたらすものだというのが今の考え方だ。SDGs、ESG投資で高い評価を得たいなら、利他主義で考える必要がある。あるいは、すべて自分たちでやるという自前主義も古く、いろんなパートナーと協業して、新しいチャンスをつくっていくことが求められる。
 経営者がすべてを知っていてトップダウンで意思決定をするという考え方ではなく、ボトムアップで会社のミッションやビジョンにどう貢献できるかを社員に考えさせるのが、現代のパラダイムによるマネジメントだ。
 また、部下とともに同じ仕事をするプレイングマネージャーから、ポートフォリオをつくって問題解決をするマネジメントへと変化している。そのポートフォリオは、人間なのか、テクノロジーなのか、社内の人か、社外の人か、山ほど選択肢がある。自分の部下にやらせるのではなく、チームを減らしてテクノロジーに投資する、あるいは業務委託するというのはマネジメントの意思決定だ。同じ作業をどう繰り返すかではなく、その作業を見直してどんな価値をもたらすかをマネージャーのレベルで意思決定する必要がある。
 鵜飼いのようなマネジメントではなく、羊飼いのようなマネジメントをしなくてはならない。若い人のほうがテクノロジーや社会の状態に敏感だ。もちろんマネージャーのほうが経験はあるが、業界の常識は世界的・社会的に非常識になっているかもしれない。若い人に教えてもらいながら自分の考えを整理していくことも必要だ。

必要なのは率先、創造性、情熱 インプットよりインパクト

 社会が変わって私たちの働き方も変わった。1930年代の集約労働では勤勉さや服従が求められた。その後、税理士やコンサルタントなど頭を使う職業が増えると、知能も必要になった。しかし、自動化やAIの活用が進んだ現在では、知能などより、率先力、創造性や情熱が必要とされる。新しいプロセスを構築して新しい価値を生み出すことを考えなくてはならない。
 あるコンサルティング会社が毎年行っている調査によると、日本人の働きがいは世界で最も低い。生産性がG7の中で最低というデータもある。日本の飲み屋では、部下の文句や上司の悪口を言う「愚痴会」が開かれている。それは必ずしも悪いことではないかもしれないが、愚痴を言うだけではなく新しい価値をもたらしていくことが大事だ。
 マネジメントの役割は、社員やメンバーの性格にバイアスを抱くことなく、常に彼らが最高のパフォーマンスを発揮できる状態を提供することだ。ボトルネックになっているものがあれば、それをどうなくすかを考えなくてはならない。
 「3人のレンガ職人」という有名な話がある。1人目は目的がなく、レンガをただ積み重ねていくだけ。2人目は生活費を稼ぐのが目的で、「この仕事のおかげで家族を養っていける」と考えている。3人目は後世に残る事業に加わり世の中に貢献することが目的で、世界のために価値を生み出している。
 何にフォーカスするかによって、チームのパフォーマンスは変わってくる。仕事はインプット(行動)ではなくインパクト(影響)が大事だ。何通のメールを書いたかというのはインプットで、何を残したか、どんな状況や現象をつくったかというのがインパクトだ。お客様が喜んだか、問題が解決されたか、といったことを考えなくてはならない。

成功のカギを握るチームの「心理的安全性」

 二つのチームがあるとき、優秀なメンバーがそろっているチームのほうが高い成果を出せるとは限らない。私が実際にグーグルで関わった、「プロジェクトアリストテレス」というチームの生産性に関する大規模な研究によると、働く場所やチームの規模、在職期間、責任範囲、個人のパフォーマンス、仕事の量などはチームの生産性にさほど大きな影響を与えない。
 チームの成功のカギは、社会に対して影響を与えているとメンバーが認識していること、仕事に意味や意義を感じていること、チームの目標や評価基準、役割分担などが明瞭であること、相互信頼があること、「心理的安全性」が高いことだ。最後の⼼理的安全性がチームの結果や生産性に最も大きな影響を与えていることが、研究で分かった。
 心理的安全性が高い状況とは、メンバーがネガティブなプレッシャーを受けず、自分らしくいられると感じる状態だ。それはプライベートなことも含めて自発的に自己開示ができる状態や、建設的な意見の対立が推奨される状態を指す。互いに自分が考えていることをしっかり言えれば、互いを高め合う環境をつくることができる。
 グーグルでは同情、共感、思いやりがマネジメントの土台になっている。社員が自分らしくいることができ、最高のパフォーマンスを出せる場を提供するのがマネージャーの役割なので、人を人として見て、承認と感謝を繰り返していく。
 そうすると「仲良しクラブ」になるのではないかと思われるかもしれないが、大事なのはバランスだ。心理的安全性があるからこそ、残酷なほどの率直さも生まれる。「ここ間違ってるでしょ、直して」とすぐに言える。それが言えない職場は、心理的安全性がないということだ。長期的なインパクトを考えれば、すぐに言わないとリスクが高く、さらに問題が悪化してしまうし、相手も学ばない。また、失敗の共有が重視されるからこそ、学習意欲に対する厳しさが増す。弊社プロノイア・グループでは「失敗は大歓迎」が一つのキーワードだが、それは「新しい失敗」だけだ。2回目、3回目になると怒られる。
 私が働いてきた会社や作ってきた会社はどれも、結果に厳しく、人に優しい会社だった。人に好奇心を持って、人を人として見て優しく接することが大事だ。同時に、結果を出して社会へのインパクトをもたらすのも必要不可欠なことだ。