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渡邉庸介(わたなべ ようすけ) :
船井総研ロジ株式会社 ロジスティクスコンサルティング部 部長 エグゼクティブコンサルタント
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荷主企業の物流再構築支援プロジェクトを推進。特に物流企業との契約内容の見直し・業務の見直しなどの短期改善から拠点配置の見直しなどの中長期物流戦略立案に従事してきた。近年では荷主企業のコスト削減とサービスレベルの見直しに注力。現場改善を物流担当者と一緒に実践することで社内へのノウハウ定着を図っている。

2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が引き下げられる。労働環境の改善が期待される一方、人手不足が強まる懸念もある。2028年度に2割超とも予測される需給ギャップを埋めるには、物流の効率化が欠かせない。そのための方策を示す。

重くなるドライバーの負担 長距離トラックは特に人材難

 物流業界ではドライバー不足が深刻化している。現在、トラックドライバーは約83万人いるが、高齢化が進んでおり、今後さらなる減少が予想されている。
 背景にあるのは過酷な労働環境だ。トラックドライバーは全産業比で時間外労働が約2割長い一方、賃金は約2割低いといわれている。
 国土交通省のデータによると、国内の物流の総重量は微減傾向だが、件数は増加している。営業用トラックによる輸送1件あたりの重量は、2000年の1.38tから15年の0.75tへと、ほぼ半減した。多頻度小ロットでのニーズの高まりや、通信販売の隆盛により、BtoB、BtoCともに荷物の小口化が進んでいることが原因だ。こうした状況がさらにドライバーの負担を重くしており、 離職の原因や求職者の敬遠を招く一因となっている。特に日をまたいで勤務する長距離トラックのドライバーは不足しており、高齢化の傾向がより強い。

28年度に27.8万人が不足? 荷物の2割は運び手不在に

 この現状を是正するため、2024年4月から「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制がトラックドライバーに適用される。これまで月98時間だった時間外労働の上限が80時間となり、その結果、休憩時間も含めたドライバーの拘束時間の上限は月293時間から275時間へと減少する(図表1)。
 長期的には労働環境を改善することでドライバー不足を緩和する効果が期待されるが、短期的には1人のドライバーが運べる荷物が減る恐れがある。これが近年話題になっている「2024年問題」である。
 公益社団法人鉄道貨物協会の予測によると、2028年度にはドライバー不足が約27.8万人に達する可能性があり、需給ギャップは2割超に達する(図表2)。荷物の2割ほどは運び手がいなくなるということだ。



需給の変化で運賃は値上げへ 荷主が選別される可能性

 従来、荷主と物流企業の運賃交渉では、荷主が主導権を握っていた時代が長く、荷物を増やす代わりに単価を下げるよう求めてきた。これがドライバーの低賃金にもつながっている。
 潮目が変わったのが2017年だ。ヤマト運輸が荷主に値上げを要求すると同時に引き受ける荷物の総量を抑制するなど、物流企業が運賃を値上げしたり、荷主を選別したりするような動きが出始めた。この頃からドライバーの労働環境の過酷さも認知されるようになり、荷主側も値上げに理解を示す流れができた。
 しかし2020年になると、コロナ禍でインバウンド需要が消えたことなどにより、物流量が減少。これに伴って値上げトレンドは一服し、そのまま現在に至っている。
 ただ、今後は2024年問題に加え、インバウンド需要の回復も見込まれ、再び物流企業側が主導権を握ると予想される。運賃交渉は仕事を失うリスクもあるため、すぐに値上げできるかは不透明だが、長期的な流れとしては値上げに向かうだろう。また、物流企業が荷主や荷物を選別する動きも再燃するとみられる(図表3)。

荷主企業の物流改革 三つのポイント

 荷主側の2024年問題への対応策としては主に次の三つが考えられる。
 一つ目は、在庫拠点を増やして分散化することだ。拠点の数が少なければ必然的に拠点間の距離が長くなるが、前述のとおり長距離ドライバーは不足している。拠点を増やして短距離輸送で済むようにすれば、地場の物流企業を使うこともでき、委託先の選択肢が増える。
 従来は維持コストを下げるために荷主が拠点集約を進めてきたが、それができたのは長距離輸送を担う事業者が多くいたためだ。その前提が崩れた現在は、分散化のメリットのほうが大きくなっている。もっとも、拠点の数を増やすとコストアップにつながり在庫も増えるので、適正な在庫コントロールに注力する必要がある。
 二つ目はモーダルシフトだ。トラックから鉄道や内航船など別の輸送手段に切り替えることを指し、すでに取り組んでいる荷主も多い。
 三つ目は、納品条件の見直しだ。多頻度配送や時間指定、手積み手卸しなどの慣行を見直し、たとえば毎日配送を2日に1回にする、手積み手卸しからパレットとフォークリフトを使った作業に切り替えるなどすれば、ドライバーの負担を減らすことができ、結果的に運賃抑制にもつながる。
 これらの施策には、荷主企業の物流部門だけでは実現できないものもある。特に三つ目の納品条件見直しは配荷先である顧客の同意が必要なため、営業部門が交渉しなくてはならない。従来、「物流費はコスト」という考え方が根強く、コストは抑えれば抑えるほどよいという発想につながってきた。経営層が物流問題に関心を持ち、必要な投資と捉えられるかどうかがカギとなる。
 また、物流の効率化は、温室効果ガスの排出削減など、環境負荷の軽減にもつながる。近年はSDGsを意識している企業が多いが、そうした観点から見ても取り組む価値があると言えよう。

物流企業も淘汰の恐れ 適正な価格設定が生き残りの条件

 一方、物流企業も需要が多いからといって安泰ではない。トラック運送を営む事業者は国内に6万以上あり、ドライバーを集められない事業者は淘汰されていくだろう。
 もともと、物流企業は自分で仕事(荷物)を作り出せないため、受け身になる傾向が強い。倉庫業も行っているような大手はともかく、荷物を運ぶだけの事業者は付加価値がつけられず、値下げをしたり、手積み手卸しのような非効率なサービスを提供したりすることで仕事を維持してきた。
 現在はメーカーによる商品価格の値上げが相次いでいるが、物流企業も原価(コスト)と売上という発想を持って適正な価格を荷主に対して提示し、ドライバーに正当な対価を払うことが生き残りの条件となる。

効率化にはデータ分析が必要 積載率の改善は「共同化」がカギ

 2024年問題を乗り越えるには、トラックの積載率を高めたり、納品先での作業時間や待機時間を極力減らしてドライバーが運転する時間を最大化したりすることが欠かせない。
 そのためには現状のデータを収集し、どこに改善できるポイントがあるかを分析することが必要だ。プラネットが推進している「ロジスティクスEDI」も、物流の情報をデータ化して効率化につなげるという点で、そうした取り組みの一環と位置づけられる。
 メーカー、卸売業、小売業と物流企業が共通で使えるデータプラットフォームは以前から存在するが、その活用によってどの程度の費用対効果があるのかが未知数のため、なかなか利用が進んでいないのが現状だ。データを使って具体的にどのような改善ができ、効果がどのぐらいあるかが明確に見えてくれば、利用も促進されるだろう。
 なお、積載率を改善するには一つの荷主企業だけでは限界があるため、「共同化」もカギとなる。異なる企業の荷物を一つの便で運んだり、重量物と軽量物を混載したりすることで、輸配送効率を高められる。こうした手法も以前から注目されてはいるが、ライバル企業同士が手を組むことへの抵抗感もあり、十分に浸透しているとは言いがたい。しかし、 人口の少ない地域では荷物の量が少ないため、競合の企業とも協力しないと積載率は上がらない。

物流危機は「イス取りゲーム」 限られたリソースを有効活用する

 ここまで述べてきたことを含め、物流の問題と改善ポイントを図表4に整理した。ここで示した改善策は、かねて提唱されてきたものも多く、実際に取り組んでいる企業もある。だが、「物流はコスト」という考えから投資に消極的な姿勢や、顧客である輸配送先へのサービス低下を避けたいという意識もあり、広がりを欠いてきた。
 しかし今後はドライバー不足や時間外労働の上限規制などにより、前述のとおり2割超の需給ギャップも予想される。そこでは「イス取りゲーム」のような状況が生まれることになる。物流企業は運賃の値上げや納品条件の見直しに応じてくれる荷主の仕事を優先するため、何 もしない荷主はイスから弾かれ、荷物を運んでもらえなくなる恐れがある。
 物流危機への対応は、2024年問題によっていよいよタイムリミットが迫っている。荷主企業と物流企業、また荷主企業同士が協力し、トラックやドライバーなどの限られたリソースを有効に活用するべき時に来ている。