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奥 元良(おく もとはる) :
株式会社三菱総合研究所 ポリシー・コンサルティング部門 セーフティ&インダストリー本部イノベーション戦略グループ 研究員

経済産業省やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、民間企業の顧客を中心に産業競争力強化や新事業・新産業創出のための調査・コンサルティングを担当。

物流業界はEC市場の拡大で配送の少量多頻度化やトラック積載率の低下が進み、労働環境の改善も道半ばという状況が続いている。こうした中、製造業に次ぐ勢いでロボット活用による省人化・自動化の取り組みが行われている。物流倉庫へのロボット導入の実態を通して、物流業界におけるロボット実装の未来像を探る。

EC市場の拡大、人手不足で省人化・自動化が進展

写真はイメージです

 直近10年で、EC市場の拡大で宅配の取扱件数が増加したことや、製造業のジャストインタイム生産方式が定着したことなどの影響で、物流の少量多頻度化が進んできた。2020年からはコロナ禍の影響が加わり、外出を控える消費者のECサイト利用が急増したことから宅配需要が急拡大し、その傾向に拍車をかけている。
 その一方で、物流業界は人手を要する業務が多くあり、長時間労働や低賃金といった労働環境も影響して、人手不足が続いてきた。
 コロナ禍では感染拡大による影響が重なって、物流が停滞する問題が起こり、一般消費者の実感としても物流業界の人手不足が感じられるところとなった。
 その人手不足をカバーするため、物流企業は、賃金を上げるなど待遇を改善して人員を確保している。
 これは日本に限らず、欧米でも同様に人手の確保がますます難しくなっている。例えば米国Amazonでは、取扱量がピークとなる2021年のホリデーシーズンに新たに物流倉庫で働く季節従業員に対し、20ドル以上の時給や最大3000ドルの入社時一時金を提示するなど、従業員の時給の引き上げやボーナスの支給で、なんとか人手を確保している状況である。
 物流業界の人件費上昇は、今後も長期的なトレンドとして続く見込みであり、このような状況を背景として、物流業界では、ロボットの活用による省人化・自動化の取り組みが積極的に行われている。

様々なタイプのロボットが物流倉庫で活躍

 物流倉庫ではすでに様々なタイプのロボットが、荷物の搬送、格納、梱包、仕分けなどのプロセスで導入されている。図1では、物流倉庫のプロセスにおけるロボット活用の一例を示す。
 ピッキングについては、ベルトコンベアで流れてくる定形物を扱うような作業にロボットが活用されてきており、柔らかいモノを掴むような技術も近年開発が進んできている。一方で、ケースの中に雑然と入れられた様々な形のモノを一つずつピックアップするような作業は、ほぼ人が対応しているのが現状である。
 今後、重たいモノ、壊れやすいモノ、柔らかいモノ、不定形なモノといった多様な荷物を高速で的確に扱うことができる、機能性の高いピッキングロボットが開発されれば、定形的なモノを定常的に扱うとは限らない一般的な物流倉庫においても、完全自動化が大きく近づいてくると考えられる。しかしながらこの種のロボットの実装は難しく、完全自動が実現して社会実装されていくまでには、少なくともあと10年は要するとみられている。



完全自動化の実現に向け設備投資を加速

 現状では、物流倉庫での荷卸し、ピッキング、積込み作業などは自動化が進んでおらず、多くの人手が必要とされている。  しかし、昨今の物流業界は、ロボットやAI・IoTなどの新技術を積極的に取り入れたIT企業やディベロッパー等の参入も著しく、企業間の提携などを通して、業務革新を進めている。
 今後も、Amazonを始めとするECプラットフォーマーや3PL( Third-PartyLogistics )などの企業による積極的な研究開発投資が続くことにより、2030年頃には、作業の多くがロボットに代替される最新鋭の大型物流倉庫が出現すると期待される。
 日本の物流倉庫には、ロボットが効果的に稼働するためのスペースがない、定常的に一定量の作業量がなく繁閑がある、営業時間が短い、などの理由からロボット導入によるコストメリットを享受できない倉庫もある。このため、ロボットを積極導入して効率化が進む物流倉庫事業者に、物流業務を委託する荷主も増えている。
 将来的には、投資余力のない製造業者や中小卸事業者が保有する倉庫は、設置から数十年後の設備更新時期を契機に、次第に減少していくとみられる。
 一方で、ECプラットフォーマーや3PLが運営する物流倉庫へのロボット設備投資は加速し、2040年頃までには完全自動化が実現するものと予想される。一層の効率化を遂げた施設は従来型の低効率の施設を徐々に淘汰し、物流プロセスは完全自動化した24時間稼働の大型倉庫へ集約されていく形となるであろう(図2)



技術・コスト面の課題をクリア物流の全体最適を目指す

 日本の物流システムは、これまでも世界に誇る高い信頼性・正確性・安全性を実現してきた。しかし、現在の物流業界の人手不足や、到来する人口減少社会を考えれば、ロボットの導入による物流システムの格段の効率化・自動化への社会的需要は大きい。とくに労働集約的な繰り返し作業や過酷な労働にロボットが果たしていく役割は極めて大きいといえる。
 2040年、ロボット実装の未来に向けては、次のような取り組み等により、技術面やコスト面の課題をクリアしていく必要がある。
● 多様なモノの素早く正確な上げ下ろしやピッキングを可能とする汎用型ロボットの実現
● 普及拡大に伴う量産化によるロボット自体の価格低減
● パレットやパッケージを含む扱うモノのサイズ・形状等の標準化
● ロボット導入効果を最大化させるための業務プロセスの見直し
● 通信環境の整備やロボットの活動スペース確保などの施設の一新

 現状では、物流ロボットの導入は、ソフト面を含めるとイニシャルコストだけでも千万円単位以上が必要となってくる場合が多い。これは特に中小企業にとっては大きな負担 である。近年はRaaS(Robot as a Service)といった、ロボットを必要な台数だけ月額の従量課金制でレンタルできるようなサービスも出てきており、イニシャルコストを抑えたロボット導入が可能になってきた。
 物流の全体最適化を見据えて、物流業界は企業の規模によらず、ロボットを活用し、いっそうの生産性向上を目指していくことが望まれている。