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2021「W11(ダブルイレブン)」目前 中国越境EC市場展望

特別レポート

日本ブランドに求められる
〝変化へのすばやい対応〟

新型コロナウイルス感染拡大の影響で中国からのインバウンドがストップする中、越境EC(電子商取引)の重要性が高まっている。中でも中国の2大ECセールとして知られる、11月11日(独身の日)開催の「W11」と6月開催の「618」は、越境ECの主戦場といえる。今年の「618」の結果から浮き彫りになった消費動向を振り返りつつ、アフターコロナも見据えて日本ブランドが取るべき対策について考える。

 

CM-RC.com 中国市場戦略研究所 代表
徐 向東(じょ・こうとう)
北京外国語大学講師を経て文部省奨学金で来日、立教大学大学院で博士号取得。日本労働研究機構(現独立法人労働政策研究所・研究機構)、日経グループ会社首席研究員、コンサルティング会社代表取締役などを務めた後、2007年に中国市場戦略研究所を設立。日中双方のビジネス事情に通じる強みを生かし、幅広い分野で中国市場開拓のコンサルティング、リサーチ、プロモーションなどのサービスを提供している。
多摩大学大学院教授兼務。

10兆円規模に成長した 
大型ECセール

 今年で11回目となる中国恒例のEC商戦「618」。期間中(21年6月1日~ 18日)のインターネット通販の総売上は5784.8億元(約9.9兆円※1)だった。前年比26.5%増であり、中国におけるネット通販の勢いが続いていることがわかる※2
 化粧品・パーソナルケア分野の総売上は、家電、スマホなどの通信機器、ファッションに次いで4位の512億元(約8780億円)で、内訳は美容・スキンケアが379億元(約6492億円)、メイクアップ・香水が132億元(約2260億円)だった※3
 「618」は通販大手「京東(JD.com)」が単独で始めたものだが、現在では「W11」を主催するアリババ傘下の「天猫(Tモール)」など多くの通販プラットフォームが参戦している。中でもTモールの売上は突出しており、総売上に対し美容・スキンケアは60.9%、メイクアップ・香水は63.4%を占めた※4
化粧品の越境ECにおけるTモールの重要性は依然として高い。
※1 1中国人民元は約17円で計算(以下同)
※2 「618」の総売上はTモール、JD.com、拼多多(ピンドウドウ)ほか22の通販サイトの合計。「W11」はTモールとJD.comの合計
※3・4 データ出所:Syntunデータ

若者に浸透する 
EC機能付き動画配信アプリ

 21年の「618」を特徴付けるものとして、中国版TikTokの「抖音(ドゥイン)」や「快手(クアイショウ)」といった、ショートムービー中心の動画配信アプリの台頭が挙げられる。インフルエンサーなどが動画配信アプリで商品を紹介して認知度を上げ、同時にECサイトに誘導する。ECの新しい販促・販売ツールとして急速に影響力を拡大しており、21年の「618」でも大きく売上に貢献した。
 特にドゥインは要注目だ。パソコン時代に立ち上げられた〝検索文化〟のTモールとは違い、ドゥインの機能はスマホに最適化されている。閲覧行動から消費者の嗜好に合うコンテンツをプッシュ配信する仕組みで、衝動買いが促される。1カ月当たりのアクティブユーザーは6億人を超え、いまや若者の生活とは切り離せないツールだ。マス向けの化粧品・日用品との親和性は高く、日本企業も効果的な活用を模索する必要があるだろう。

総売上の1割以上を占める 
ライブ販売の影響力

 こうした動画配信アプリに関連して、中国のECの特筆すべきトレンドとして「ライブコマース」の人気も指摘しておきたい。「ライバー」と呼ばれるインフルエンサーが、「淘宝直播 (タオバオライブ)」といったライブコマースに特化したツールや、ドゥインやクアイショウなどのライブ機能を使って、商品を視聴者に紹介。ライバーとのリアルタイムのやり取りで、視聴者は実店舗にいる感覚で買物ができる。今年の「618」では、タオバオライブ、ドゥイン、クアイショウの三つにおけるライブ販売の売上は合計645億元(約1.1兆円)に上り、期間中の総売上の1割以上を占める計算だ。
 特に売上が多かったライバーは男性の李佳琦(オースティン)と女性の薇婭(ウェイヤー)で、2人で113億元(オースティン59億元、ウェイヤー54億元)、日本円で2000億円近くを売り上げている。
 ただ、中国市場のトレンドの変化は速く、人気ライバーが支えるライブコマースの最盛期はすでに過ぎつつあると見る。ロレアルとエスティ ローダーは21年の「618」の期間中、Tモールの旗艦店で自社のスタッフらが商品を紹介する「自前ライブ」を開催。それぞれ2億7400万元超(約47億円)を売り上げた※5。人気ライバーに頼らずブランドの力で売ることが重要になってきている。
※5 データ出所:中国化粧品業界サイト「聚美麗 jumeili.cn」2021年6月22日の報道

中国ローカルブランドが躍進 
日本ブランドは危機意識を

 化粧品分野では特に人気定番商品の強さが目立ち、「売れるもの」「売れないもの」の差が拡大する傾向が強まった。
 新型コロナの影響で海外旅行ができず、中国の消費者が海外の新商品を目にする機会が減少。このため露出が多く知名度の高い商品に人気が集中した。
 スキンケア商品では1~2万円以上のプレミアム商品を持つロレアル、エスティ ローダー、ランコムなどの欧米ブランドが依然として強かった。欧米企業は現地法人のトップに中国人を起用するケースが多く、積極的にプロモーション活動やセールスを展開したことが奏功し、コロナの影響は軽微で済んだ。
 ドゥインなどの販促ツールの活用が早かった韓国企業も健闘し、「The History Of Whoo(后)」「雪花秀(ソルファス)」といった新興ブランドが高級品を中心に売上を大きく伸ばした。
 メイクアップ商品では品質面で日本ブランドにキャッチアップしつつある中国ブランドが売上を伸ばし、ローカルブランドの存在感が増す格好となった(表1)。
 一方、インバウンド停滞の影響を受けた日本ブランドは、一部で健闘が見られたものの、昨年のW11と比べると上位100位に入るブランドが減っている。このままでは中国市場におけるシェアが縮小しかねない状況だ。将来的には巨大な資本力を武器に中国ブランドがますます台頭し、日本に上陸する可能性もある。日本勢はもっと危機意識を持つべきだろう。

中国はコロナ前の平常モード 
変化を見極め適切な対応を

 中国での越境ECにおいて、日本が今後取り組むべき対策は大きく二つあると考える。
 一つは「消費市場の変化に合わせた施策」だ。
 中国はコロナ禍からいち早く脱却し、現地の人々の生活はコロナ前の平常モードに急速に戻りつつある。今年の「618」のTモールにおける化粧品分野の売上を見ると、クレンジングの売上が前年比82.3%増と急伸した。これは中国の消費者がマスクを外して化粧をしたり日焼け止めを塗ったりし始めているためと考えられる。また、美容スキンケア/ボディケア/エッセンスオイル分野で一番売れた価格帯は300元(約5145円)以下で全体の50%を占めたが、2700元(約4万6000円)以上の高級化粧品の伸び率が一番高く、101.3%に達した※6。消費者が普段の生活を取り戻したのに伴い、スキンケアの意識が高まっていることが読み取れる。
※6 データ出所:ECdataway

予約販売が進み初日が勝負 
セールスポイントをより明確に

 今年の「618」は5月24日から予約販売を開始し、Tモールの化粧品の初日売上は、期間中の売上の約半分を占めた。その後は大きく売上が下がり、ほぼ横ばいとなっている※7。この傾向は「W11」でも同様であり(昨年は10月21日に予約販売を開始)、セール期間より前に、ブランドの知名度や商品ニーズを拡大させておく活動が必要である。
 こうした消費市場の速い変化、めまぐるしく変わるトレンドを見逃さずに施策を展開しなければ、中国の越境ECで日本勢が存在感を示し続けるのは難しいだろう。
 もう一つ、「自社商品のセールスポイントの明確化」も重要だ。
 自社商品のどのような特性が中国の消費者に響いているのか。商品の訴求点があいまいなままだと、プレミアム分野に強い欧米や韓国と、マス向け分野で台頭する中国企業との間で埋没する恐れがある。例えば、化粧品であれば多くの企業が「保湿」を謳っているが、それだけでは強く訴求できない。今年の「618」で、結果を残した欧米企業や一部の日本企業は、自社の商品特性を上手に表現できていた。今年11月に控える「W11」、さらにはその先のEC商戦に向け、スピード感をもって実効性のある戦略を立てる必要がある。
※7 データ出所:ECdataway