株式会社プラネット

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ドライバー不足やシステム面の課題などからモノを運べない・届かない「物流クライシス」問題が浮上して久しい。
コロナ禍は日本の物流にどんな影響を及ぼしているのか。
サンスター株式会社 日本ブロック理事で、国内消費財メーカー全体の物流・ロジスティクスの構造改革に取り組まれてきた
荒木協和氏と、当社社長・田上正勝が、アフターコロナ時代を見据えた物流のあるべき姿について、意見交換を行った。

コロナ後も変わらない 物流課題の本質

田上
 今般の新型コロナウイルス感染拡大により、消費財メーカーを取り巻く物流現場はどのような状況にあるのでしょうか。
荒木
 コロナ禍にあっても、メーカーとしては世の中に必要なモノを作り、消費者にお届けする使命があります。どんな状態でも物流を機能させてお届けしなければなりません。今回のコロナ禍で当初は物流がどうなるか、止まるのではないかと心配されました。しかし実際は滞るような事態は起きていません。物流が止まらなかった最大の要因は、現場の方々の献身的なご努力が大きいのですが、もう一つ、近年のドライバー不足を解消するため、行政(国交・経産・厚労・水産・公取など)が中心となって推進している、「ホワイト物流」推進運動の成果があるのではないでしょうか。発・着荷主そして物流会社が、物流の労働改善に向け、一体となって活動を進め始めた効果は大きいと思います。
田上
 物流の実態を見ると、自動車メーカーなど一部の工場の稼働が止まったりしたことで、ドライバーやトラックも余裕が出ていますね。一方で、従来よりも物流量が増えている分野もあります。
荒木
 コロナ禍で販売チャネルが変わったことが影響しています。2020年の半年間を小売業全体の販売統計で見ると、前年比較で98%と微減なのですが、販売チャネル別に見ると大きく差が出ています。百貨店が休業により66. 9%に大幅減。意外なのですがコンビニも95 . 5%に減少しています。自宅勤務などで出勤する人が減ったため、コンビニの販売が下がったようです。一方でドラッグストアやスーパーは伸びています。特に通販の伸びは凄いですね。このように、販売チャネルが変われば、当然商品が変わり、連動して運び方も変わります(表1)。
 コロナ禍による通販の増加は、単に宅配の個数が伸びただけでなく、運び方が大きく変化しました。いわゆる「置き配」が社会的に認められるようになったのです。感染リスクを抑えるため接触を避けたいと考える置き配や、在宅率が高まったことで、社会的問題となっていた再配達が大きく減少し、配送効率も大幅に伸びたようです。実は置き配ができなかったら、日本の宅配業界はパンクしていたと言われています。
 また、自動車メーカーなどの一部の業界で生産が減少し、これによりトラック不足が軽減されたという話もあります。コロナ禍による物流への影響は、各所に出ていると思います。
田上
 なるほど、興味深いですね。外的要因でトラックが足りるようになったとしても、たまたまコロナ禍のおかげで助かっただけで、物流クライシスは構造的に解決していないように思います。経済活動が回復すれば、また課題が再燃することになります。しかも、宅配業界では「置き配」のような好例が出てきているのに通常の店舗向けの配送効率が変わらなければ、「ネット通販の方が効率がいい」となってしまいます。業界としては、全国のすべての小売店に確実に商品を運び続けるために、引き続き、アフターコロナの時代に向けた物流の構造改革に取り組む必要があると思います。
表 1

現場の業務負担軽減が物流効率化に不可欠

プラネットが進める
物流標準EDIの
構築に期待

荒木氏
田上
 これまで物流センターは情報公開に慎重でしたが、最近は少しオープンになっていますね。
荒木
 入荷(メーカー・卸売業間の物流)の方では徐々に進んでいることを感じます。これも「ホワイト物流」の成果が大きいと思います。メーカーとしては、物流現場の事情や課題がわかることで、納品方法を改善するところが見えてきます。すでに、着荷主(卸売業)と連携した事前仕分けや、届け先に適した物流会社に委託するなどを実践しています。お互いを知ることで物流効率化のプラスになるという意識は高まっていると思います。
田上
 課題が共有され始めたと言えますね。とはいえ物流現場では、まだまだ非効率な部分があるように思います。例えば卸売業は、メーカーにEDIで発注しますが、発注した商品が必ずしもそのまま入荷されるわけではなく、数量変更もあるそうですね。EDIで効率化されているのは商流だけで、物流現場での入荷確認作業は非常に複雑だと聞きます。
荒木
 その通りです。メーカーと卸売業の受発注のEDI化率は、今や9割以上です。ただし、変更なく仕入データを返せている(ターンアラウンドできている)のは7割ぐらい。あとの2割は品薄で出荷数量を調整したり、特売品の割り当てを行ったりしています。EDIからデータを一旦落として、支店の営業担当などが出荷数量を振り分ける判断をして、その結果をWMS※1に改めて手入力しています。
 卸売業からすると、発注データとドライバーの持参する納品伝票の内容が異なるため、発注データと伝票を見て一つひとつチェックすることになります。この作業に10トン車1台で1時間ぐらい必要です。これらを解消するには、発荷主(メーカー側)が積み込み後に出荷情報(ASN※2)を伝送し、入荷時にITF※3を読み込みデータ検証するようになればよいのですが、現在は商流情報と物流情報が連動していないためできていません。双方の連動は早く進めるべきだと感じます。
※1:WMS:Warehouse Management System=倉庫管理システム
※2:ASN:Advanced Shipping Notice=事前出荷情報。納入業者(メーカー等)から納品先(物流センター等)に対し、出荷情報を事前に通知すること
※3: ITF:Interleaved Two of Five=日本における物流共通シンボル
 

『ロジスティクスEDI概要書』を策定
現場重視の物流改革推進を担う

田上

メーカー、卸売業、物流会社が参加し 物流EDIの標準化を目指す

田上
 当社はメーカーと卸売業が同じテーブルについて議論していただく場を提供し、二者間の調整に長年取り組んで参りました。2020年2月、物流EDIの標準化を目指す『ロジスティクスEDI概要書』を策定しました。概要書策定にご協力いただいた各社に加えて、今後は物流会社にもご参加いただき、標準データを使った物流改革の実験などを進めていく予定です。ご参加の皆さまのお役に立てるアウトプットを目指して、物流改革の新たな潮流を生み出していきたいと思います。
荒木
 物流は販売(商流)という目的のために発生する活動です。よって商流と連動していなければなりません。プラネットさんは35年もの長い時間をかけて消費財流通に関わる700社以上のメーカーと400社以上の卸売業とのネットワークを構築されていて、情報のプラットフォームができています。今後はプラネットさんが以前から進めている、ターンアラウンド方式を物流に連結させ、商物一体型のEDIを構築していただきたいと願っています。そうすれば、物流の現場は大きく改善されると確信します。
田上
 ありがとうございます。物流現場の方々からも、遠慮せずどんどんご意見をいただけるような場を提供して、現場重視で改革する推進役の一端を担いたいと思います。これからもぜひご指導ください。

表2