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上海工程技術大学・特別講演抄録

「日本の流通機構の凄さの秘密」

玉生 弘昌
株式会社プラネット
代表取締役会長

当社会長の玉生弘昌は、中国の上海工程技術大学(上海市松江区)の招請を受け、2018年6月5日(火)、同大学の学生、教授ら約200人を前に特別講演を行った。日本の一般消費財は、なぜ品質がよく、種類が多く、そして安いのか、その理由を流通機構における卸売業の役割を中心に、日本の社会背景も合わせて解説した。
※本稿は、同日の講演内容を要約したものです。

(広報誌 PLANET vanvan 2018年秋号(Vol.120)掲載記事より)PDF PDF版 (820KB)

日本の流通を支える卸売業の存在

 訪日外国人旅行者は急速に増えており、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年には、4,000万人を超えると言われている。彼らは日本に来て、観光するだけでなく、ショッピングも楽しんでいる。2015年頃には、炊飯器や温水洗浄便座などを大量に買う中国人が目立ち“爆買い”と言われたが、最近はこうした耐久消費財を買う人は減った。しかし、日用品、化粧品、OTC医薬品、菓子、加工食品などの非耐久消費財は、相変わらず売れている。その理由は日本では、品質がよく、種類が多く、安いものを全国どこの小売店でも買うことができるからだ。なぜそれが可能かというと、メーカーと小売店の間に「卸売業」が存在するからである。
 メーカーと小売店の間に卸売業があると値段が高くなるから、卸売業はないほうがよいと普通は思うかもしれない。実際に日本でも、1962年に権威ある大学の教授が『流通革命』という本を出し「問屋無用論」を唱えた。この本が売れたために、残念ながら今でも、卸売業はないほうがいいと思っている人がたくさんいる。しかし、私はそう考えない。卸売業をいらないとする人は、流通を「1対1」でしか見ていない。流通は「複数対複数」の取引であり、卸売業が必要か、必要でないかは「複数対複数」で考えなければいけない。


卸売業の存在意義を数学的に検証する

 「メーカー複数対小売店複数」の図式で、直接取引と卸流通を比較してみたい。メーカーの数をm、小売店の数をnとすると、取引の数は直接取引では「m×n」、卸流通では「m+n」となり、卸流通のほうが、大幅に取引回数が少ないことがわかる。この考え方を示したのは、マーガレット・ホール※である。たとえば小売店が、1,000種類の商品を直接1,000社のメーカーに発注すると、1,000台のトラックがやってくる。しかし、卸売業が100社のメーカーの商品をまとめれば、トラックは10台で済む。
 日本のドラッグストアやコンビニエンスストアの店頭では、150円くらいの耳かきが売られている。小売店が耳かきメーカーと直接取引すると、物流などの取引コストだけで500円くらいかかり、150円で売ることは不可能だ。しかし、卸売業が10社のメーカーの商品をまとめればコストは50円になる。これが月に数本しか売れない耳かきを店頭に置ける理由だ。
 このように数学的に示すと、卸売業の必要性がよくわかる。卸売業は一般の目に触れる機会がないため、日本でもその存在はあまり知られておらず、役割を正しく理解している人は多くないが、社会的有用性があるからこそ、いつの間にか大会社になって今日に至っている。


卸売業の機能と進化した配送サービス

 卸売業には大きく4つの機能がある。多くのメーカーから商品を仕入れる「調達・品揃え」、たくさんの小売店に効率よく荷物を運ぶ「配送」、商売の根幹である「代金回収」、さらに、メーカーや小売店への「情報収集・提供」だ。
 中でも、配送機能は重要である。複数のメーカーから何種類もの商品をまとめて運ぶため、多くの手間がかかり、ミスも生じやすい。そこでいかに手間を減らし、ミスを減らすか工夫を凝らした結果、卸売業の配送機能は長足の進歩を見せた。現在では、ダンボールを開けて商品を一つ一つ取り出し、オリコンといわれる箱に商品を入れて小売店に運ぶ、「多頻度バラ物流」と呼ばれる物流サービスを毎日行っている。その上、これだけ細かい仕事でありながら、その結果の正しさは99.999%の精度を誇るのだ。このような多頻度バラ物流サービスを大規模に展開している中間流通業は、世界で日本にしかない。


欧米流大型小売店がもたらす問題


 欧米では、大型小売店への寡占化が進んでおり、「卸売業やブローカーなどの中間流通業を中抜きして商品を調達することが、コストダウンの絶対的な方法である」と考えられている。
 大型小売店は、少数のメーカーと直接契約して大量に安く商品を調達するため、商品の多様性が失われる。契約メーカー以外は売り先を失い、新たな参入障壁は高くなり、自由競争も損なわれる。また、寡占化が進むといずれ商品の価格が高くなるが、その時には大型小売店以外では商品を売っていないため、消費者はそのことに気づきにくい。
 現在、アジアに欧米の大型小売店が進出し、大量仕入れ、大量販売を進めている。大型小売店を見たことがない人々は、これを近代的流通だと信じてしまう。その結果、伝統的な文化に基づく多様な商品が失われていってしまうのだ。画一的な商品で、消費者は本当に満足なのだろうか。生活に必要な最低限のものさえあれば、それで幸せか。私たちは多様な選択肢の中で、より人間らしく、文化的で快適な生活をしたいのではないのだろうか。
 実は、欧米の大型小売店は、日本にも進出してきたが成功していない。日本には卸売業があるため、消費者は身近な小売店で、同じ商品を安い価格で買えるからだ。
 日本のインフラの質の高さには定評がある。水道はどこでもそのまま飲め、電気は電圧が安定し停電もない。鉄道の時間の正確さは以前から有名だろう。そして流通機構も、人々の生活を支える重要なインフラの一つである。


豊かな生活を支える流通インフラを

 当社は、日本の日用品、化粧品、OTC医薬品、ペットフード・ペット用品業界の卸売業とメーカーが利用できる「業界特化型インフラ」として、日本の流通構造の中で大きな存在になっている。業界取引のおおむね90%以上が、当社の通信サービス上で取引されている。
 当社は私企業としての利益追求以上に、公的な役割を重視して、安全・継続・標準・中立・安価というインフラとしての原則を掲げている。卸売業は舞台裏で「縁の下の力持ち」として活躍する存在である。その卸売業とメーカーとの間で通信サービスをしているプラネットもまた同様であるが、隠れたインフラとして日本の流通機構を支えている。
 日本の卸売業は、長い歴史の中で基礎を築き、今日では流通機構の中核として大きな存在になっている。欧米の流通業は大型小売店への寡占化が進んでいるが、あらためて両者を比較すると、消費の多様性を保ち、国の文化を守り、健康で快適な生活を支える仕組みを作り上げることが、私たちの目指すべき理想ではないだろうか。より文化的で豊かな暮らしをおくるうえで、卸売業が果たす役割は決して軽視できないはずだ。
※アメリカの経営学者、1948年「取引回数極小の原理」(Principle of Minimum Total Transactions)を発表し、一般的に“ホールの原則”といわれている。

学生との意見交換会


 講演の後、上海工程技術大学の学生や教授陣と、当社社長の田上をはじめとするプラネットチームで意見交換会を行った。中国の学生からは活発な質問が続き、日本の流通への関心の高さがうかがえた。これを機に、日中の産学共同研究などの可能性を模索していきたい。