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流通の次世代を考える

消費財流通業のグローバル展開【中国上海・小売業編】

麦島 篤さん
総経理/薬剤師(日本)

株式会社ココカラファイン/可開嘉来(上海)商貿有限公司
消費財流通業のグローバル展開を考える上で、中国はその規模や成長性から、非常に魅力的な市場といえる。その反面、文化や商習慣の違いにより、進出を躊躇、あるいは撤退する企業も多い。実際に中国でビジネスを行うには、何が重要となるのだろうか。今回は、中国の直轄市の一つである上海市に、日本のドラッグストアとして初めて現地法人を設立し、日本式ドラッグストアを営業しているココカラファインを取材した。

人気ショッピングモールへの出店がカギ


エスカレーター前の好立地(cocokara メトロ五番街店)

 株式会社ココカラファインは、中国におけるビジネスにいち早く着目し、2009年9月、台湾の企業との合弁というかたちで、日系企業として初めて中国でのドラッグストア事業に乗り出した。その後、2011年9月に合弁を解消。翌2012年3月に100%自社出資にて現地法人可開嘉来(上海)商貿を設立、同年5月に上海市の繁華街にあるショッピングモール「美羅城(メトロシティ)」内に、日本式のドラッグストア「cocokaraメトロ五番街店」をオープンした。2013年に売り場面積を拡大し、化粧品を中心とした店舗へとリニューアルしたところ、メイクに関心を持ち始めた上海の若い女性たちから支持され、それ以降、順調に業績を伸ばし続けている。
 現地法人の総経理(責任者)を務める麦島篤さんに、店舗を案内してもらった。
 「上海はショッピングモールの激戦区なので、どのモールのどの場所に出店するかが、とても重要です」と麦島さんは語る。メトロシティは、地下鉄のターミナル駅に直結していて利便性もよく、上海では非常に人気があるショッピングモールの一つだ。とくに日系ショップを集めた地下フロア「五番街」は、話題のスポットとして多くの若者でにぎわっている。
 ココカラファインの店舗は、この五番街の中でもひときわ目立つ、中央エスカレーターの正面という好立地にあり、次々と若い女性が店内へと入って行く。店頭に並ぶ商品は、およそ8,000アイテム。そのうち4~5割が日本から輸入した商品で、売上高の6割を占める。
 「日本のドラッグストアをできるだけ再現したいのですが、こちらでは医薬品が輸入できないため、今のところはスキンケア やメイク用品、日用雑貨が中心となっています(麦島さん)。
 2、3年前までは、日本からの輸入商品は有名な大手メー カーのものに限られていた。だが最近は、日本で売れている 中小メーカーの人気商品が多く入るようになってきたという。 ここ数年、日本国内でインバウンド需要が高まり、中国人が好む売れ筋の傾向がわかってきたことから、各メーカーが中国での販売に本腰を入れ始めたことも大きく影響しているだろうと、麦島さんは分析する。


文化や商習慣の違いを受け入れる

 麦島さんが中国上海の現地法人に着任したのは、2016年3月。もともと海外事業部で東南アジアを担当しており、長年、タイやベトナムの仕事をしてきたが、中国でのビジネスはそれらの土地とはまったく異なり、初めは戸惑うことばかりだった。
 最大の問題は、中国への輸入の登録申請が煩雑で審査が厳しく、時間とコストがかかることだ。一つの商品を登録し、実際に輸入できるまでに1年以上かかることもあり、それが中小メーカーの中国進出の障壁にもなっている。
 また、「突然の一方的な通達などが頻繁にあるので、臨機応変な対応力が求められます」と麦島さん。たとえば今年の5月には、日本の消費税にあたる税制の税率変更があったが、その通知が来たのは直前の4月だった。月をまたぐ4月分の売上の決済をどう処理すればいいのかという指針もなく、混乱する中、自分たちの判断で取引先と調整をしなければならなかった。
 2月の春節(旧正月)など年間の法定休日も、毎年変わる。前年の11月に祝日の正式な日程が発表されるため、次年度の細かい計画はその段階から詰めていくことになる。日本ではとても考えられない事態である。
 現在、事務所に5名、店舗に12、13名のスタッフが働いているが、麦島さん以外は全員中国人だ。雇用にあたって、中国人の仕事に対する意識のギャップにも驚いた。
 「彼らにとって転職はキャリアアップであり、少しでもいい条件があれば、何の躊躇もなく簡単に辞めていきます。常に人の入れ替えが起こっている感じですね。とくに春節などの長期休暇には、故郷で家族と過ごすことを優先し、休みの直前になって突然、辞めるケースが多いです」。初めの頃は、連休前に大量の欠員が出て店舗の運営に苦労したが、最近はそれも中国人のライフスタイルとして受け止め、そうした状況を見越して人員計画を立てるようになった。


圧倒的なスピード感で変化する上海

 さまざまな困難はあるが、それでも上海はとても魅力的な市場だと、麦島さんは力強く語る。
 「たとえば、ほんの数年前まで、メイクをする上海女性は、極少数でした。それが今日では、きれいにメイクをしたおしゃれな女性であふれています。1年で街の様子がガラリと変わるほど、上海では社会がダイナミックな変化を遂げているのです。経済もまた然りです。そうした変化を直に感じながら仕事ができるのは非常に刺激的であり、ビジネスの醍醐味でもあります」。
 そもそも同社が出店する以前には、ドラッグストア自体がなかったこともあり、今後この分野が大きく伸びる可能性は十分にあった。似たような業態ではWatson's(ワトソンズ、本拠:香港)が先行しているが、ワトソンズはどちらかというとブランドごとに化粧品が並ぶバラエティショップという色合いが強い。ココカラファインは“こころとからだの健康を支える”というコンセプトのもと、日本の店舗と同じように商品をカテゴリーごとに並べ、お客様の動線を考えた棚づくりをすることで、差別化を図っている。
 もう一つ、差別化のポイントとして力を入れているのが、きめ細やかなサービスだ。社会主義国の中国では、小売業の従業員でも客にサービスをするという意識がなかった。そこでまずスタッフにサービスとは何かを理解してもらうことから始め、お客様がほしいものをきちんと聞いて、売り場まで案内するように徹底した。これが来店客にも好評で、リピーターの獲得につながっている。
 また、スタッフのモチベーションを高めるために、個人ではなく店全体としての目標を設定した。その結果、自分の売上だけを考えるのではなく、みんなで協力して店をよくしていこうという連帯感が生まれたという。


日本の商品を中国に広める橋渡し役に


多くの若い女性客で賑わっている(cocokara メトロ五番街店)

 日本から商品が入ってくるまでにはタイムラグがあるため、入荷計画を立てる際には、日本のインバウンドの売上データを参考にしている。ただし、日本で売れている商品がそのまま中国でも売れるとは限らず、逆に中国でしか売れない商品もある。たとえば最近では、タレントが黒いマスクをファッションとして使ったことから、突然、黒いマスクが飛ぶように売れるようになった。また面白い例として、日本の老舗ブランドの男性用ヘアトニックが、なぜか若い女性に非常に人気だという。
 「中国ではクチコミの影響力が大きく、いつ何が流行るかを完全には予測できません。私たちが思いつかない意外な需要が、ビジネスチャンスにつながることもあるので、やはり現場にいて自分の目で市場を観察することが大事ですね」。
 また、中国のグローバル化が進み、消費者の選択肢が広がる中で、「メイド・イン・ジャパン」のブランド力が、昔ほどなくなってきていると麦島さんは感じている。
 「日本のメーカーさんはもっと積極的に中国へ来て、自分たちの商品の品質をアピールしたほうがいいと思います。タイミングを逃したら、中国市場でおいてけぼりになりかねません。私どもに相談いただければ、店頭でプロモーションを行うなど出来る限りの協力をします」と麦島さん。「私たちは、日本の優れた商品を中国の人たちに届ける橋渡し役になりたいのです」。


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 今回の取材で上海を訪れてみて、街全体に満ち溢れる活気に圧倒された。電子決済が小さな商店に至るまで普及しており、QRコードを使ったシェアサイクルの普及など、日本より進んでいる取り組みも多くある。
 日本の内側から中国を見ているだけでは、情報に限りがあり、勝手な先入観を持ってしまいがちだが、やはり実際に現地を訪れ、そこで仕事をする日本の方々に話を聞くと、違った側面が見えてくる。今後もプラネットは、消費財流通業のグローバル展開に役立つような情報を、読者の皆様にお伝えしていきたい。