株式会社プラネット

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製・配・販連携協議会 多言語商品情報プロジェクト/
座談会

製・配・販の有志が推進する訪日外国人客向け共通インフラの構築

「多言語商品情報提供サービス(Mulpiマルピ)」は、製・配・販連携協議会の有志メンバー(P.3*2参照)が中心となり、サービス の構想からシステム構築までを進めてきた。プロジェクトにかける思いや、運用開始に至るまでの苦労など、メンバーの皆さ んに自由にお話しいただいた。
(進行)田上 正勝 株式会社プラネット 代表取締役社長

- 出席者 -

平松 秀郷 さん
株式会社マツモトキヨシ
ホールディングス
執行役員 営業統括本部
IT統括部長

川端 正樹 さん
株式会社ファミリーマート
商品・物流・品質管理本部
商品企画部 商品戦略企画
グループ マネジャー

染矢 慶太 さん
ライオン株式会社
ヘルス&ホームケア事業本部
学術情報部 主任部員

岡部 忠司 さん
花王株式会社
事業推進部門
事業戦略推進部
事業戦略推進部長

斎藤 伸也 さん
花王グループカスタマー
マーケティング株式会社
流通開発部門
KCT推進部 部長

(PLANET vanvan 2018年夏号(Vol.119)掲載記事より)

メーカー発信の正しい情報を訪日外国人客へ届けたい

田上 この多言語商品情報プロジェクトは、有志が自主的に集まり、定期的に議論を重ね、実証実験の費用も自分たちが負担して進めてきました。それがついに実を結び、Mulpiというアプリケーションによる多言語商品情報提供サービスとして、運用が開始されました。そこでまずは、皆さんがこのプロジェクトに取り組もうと決意した背景をお聞かせください。
平松 当社の場合、お客様の構成比における訪日外国人客の割合が高く、多言語化は重要な課題と認識しています。そのため、自社でもインバウンドに関する対策は講じていま す。
 その一方で、このプロジェクトについては、一企業の事業戦略の域を超え、業界の一員として訪日外国人客の買い物の利便性を高める社会インフラの強化に貢献したいという 想いで参加しています。
川端 商品企画部にいると、多言語化による訪日外国客への対応の必要性を日々強く感じます。それは流通業界全体に共通する課題であり、小売業あるいはメーカー、卸売業の個別企業の対応に任せるのではなく、オールジャパンで取り組んでこそ成果が出るものだと思うのです。
染矢 私はもともと日本TCGF(※1)という団体で、外国人対応を含めたユニバーサルアクセスの研究に携わっていました。その中で、結局、インフラをつくらなければどんなアイディアも成果に結びつかないという話になり、こちらに参加して皆さんと一緒に一からシステムをつくってきました。
岡部 私どもは自社の多言語サイトを立ちあげていますが、やはり1社でできることには限界があります。また、多言語対応への意識もグループ内で温度差があり、同じ熱量で取り組めないという悩みがありました。こうして社外の皆さんと連携して一つの共通インフラをつくることで、外部からも社内全体を動かしていきたいという志をもって、プロジェクトに参加しました。
斎藤 私は、前任から引き継いで岡部とともに当プロジェクトの座長を務めています。通常こうしたプロジェクトは、ガイドラインをつくって終わりというものが多いのですが、私たちは訪日外国人客の買い物支援という目標を掲げ、仕組みをかたちにするところまで取り組んできました。メーカー発信の正しい情報を訪日外国人客の方々に届けるという使命感を全員で共有していたことが、大きな力になっていると思います。


実証実験でコンセンサスが出来上がった

田上 一昨年、マツモトキヨシさんとファミリーマートさんの店舗で、JANコードを使った商品情報の多言語表示サービスの実証実験を行ったことで、プロジェクトの方向性がはっきりと決まったのは、大きな収穫でしたね。
平松 私どもは関東で一番訪日外国人客の来店数が多い、新宿の店舗を実験の場として提供しました。実験の結果、商品カテゴリーの多言語表記だけでも利用者の5割がその有用性を認め、さらに写真や商品詳細情報まで表示した場合には、8割強が「役に立つ」と、サービスを高く評価しました。
 もちろん普段から各店舗で訪日外国人客に対応できる体制を整えてはいますが、接客する人員が限られています。ですから、英語、中国語、韓国語等が必ずしも同じレベルで情報提供できているわけではありません。それがシステム化されることで、誰に対しても平等に商品情報を提供できるようになり、また、ある程度の人員で対応できるということで、店舗にとっては非常に有益なツールになると感じました。
 ただし、登録の件数が問題で、バーコードをスキャンした時に情報のヒット率が高くないと、実際に小売業で使うには耐えられないであろう点が課題です。小売業の立場から言えば、とにかくできるだけ多くのメーカー、ベンダーさんに商品情報をご登録いただきたいというのが本音です。
川端 当社はマツモトキヨシさんの実験対象店に近い、上階に免税店が入っている店舗で実験を行いました。実験の準備で一番大変だったのは、データ管理などを行う流通システム開発センターさんだったのではないかと思います。雑誌やタバコなども含めると1店舗に約3,500アイテムあるのですが、それを全部読み込み、情報を登録していただきました。
 実験については、現場も前向きに取り組み、うまくいきました。通常、外国人客への対応は、店舗ごとに一部の人気商品にQRコード(※2)をつけて商品の特徴を表示できるようにはしていますが、いろいろな課題が残りました。こうしたシステムがあれば、外国人のお客様の買い物が便利になると手応えを得ました。
岡部 初めの頃は会議の中でも、それぞれがあくまでメーカーや卸売業、小売業の感覚で議論をしていました。それが、自分たちが経費を負担して共同で実証実験を行い、その結果として、利用した外国人客の8〜9割が役に立つと感じたというファクトを見せられた時、我々がやっている活動は間違っていないのだというコンセンサスが生まれたのです。消費者ベースの共通認識ができた意義は、非常に有益でした。


QRコードや自動翻訳を採用しなかった理由

田上 そもそもこのプロジェクトは、何もないゼロからのスタートでした。どんなサービスが求められるのか、私たちに何ができるのかというところから、真剣に議論を重ねてきました。
岡部 最も悩んだのは、協調の領域と競争の領域をどう切り分けていくかという点でした。共通のインフラとしてどこまで整備して、どこからをメーカーの裁量に任せるのか、侃々諤々がんかんがくがくの議論をしましたね。
田上 サービスの実用性を考えると、まずは情報が表示されない状態、いわゆる空振りを少なくしなければいけない。そこで、JICFS分類(※3)を利用したカテゴリー情報の多言語表示は共通にし、業界データベースからデータ連携することがいち早く決まりました。これは最低限の基本情報です。さらに満足度を8〜9割にするためには、商品詳細情報の多言語版を用意する必要がある。そこは費用もかかり、競争領域になるので、各メーカーに準備していただくという2段階の考え方に落ち着きました。
平松 当初は、QRコードかJANコードかという議論もありました。QRコードは普及しているとはいえ、現状でQRコードがついている商品はまだごく一部です。2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、各メーカーが自社商品にQRコードを添付するところから始めていては間に合わない。それよりも、ほぼすべての商品についているJANコードを活用したほうが、実現性が圧倒的に早く、コストもかからないだろうということで、私たちはJANコードを採用しました。
 しかしながら、JANコードはどの商品でもスキャンできてしまうので、そこで詳細情報が表示されないと、サービスの利便性は一気に下がります。そこが一番の課題です。
染矢 翻訳についても、自動翻訳でいいのではという議論がありました。しかし、日本語特有の表現(食品のテイストや商品特徴に使われる形容詞)は自動翻訳では不適当な記述になることが多いということで、自動翻訳の採用は見送りました。
斎藤 翻訳のアプリは様々な種類がリリースされていて、メニューなどをかざせば世界各国の言葉で翻訳してくれるものもあります。商品情報においても多言語で情報提供するアプリが先行していましたが、一部にはメーカー非公式の情報が含まれている場合もあり、それが正しいかどうかはわからない。私たちのプロジェクトの要は、商品の詳細情報について、メーカーが届けたい正しい内容を訪日外国人客の方にきちんとお伝えすることにあります。もちろん、商品の特徴をしっかりアピールしたいメーカーもあれば、簡単な効能書だけでいいというメーカーもあるでしょう。そこにある程度の自由度があることが、このシステムのポイントです。
岡部 たとえば、メーカーによっては日本語のホームページがそのまま出て、SORRY JAPANESE ONLYという表示でもいいのではないかと思います。何もないより、その方がいいかもしれません。手段としてこの仕組みをどう使うかを、各メーカーで考えてくれればいいのですから。


オールジャパンで取り組む効果と責任

染矢 翻訳という点では、薬品の適正使用情報は難しい課題でした。現行の薬機法(※4)は、日本の国内で承認された表現で成り立っているので、それを他国の言語にどう置き換えればいいのか。今はまだ手探りの部分がありますが、とにかく消費者が間違った使い方をしないように、伝えるべきことはしっかり伝えなければいけないということで、現在、日本OTC医薬品協会が添付文書の英訳ガイドラインを作成しているところです。
田上 Mulpiができたことで、そこに添付文書も表示したほうがいいのではという話になり、それが日本OTC医薬品協会によるガイドラインの作成につながった流れがあります。このプロジェクトが、業界全体を動かす一つのトリガーになって、様々なかたちで訪日外国人客の買い物支援が実現していくといいですね。
染矢 私が一番苦労したのは、じつは社内の調整です。ここで皆さんと話している分には、立場や意見の違いはあってもお互い話が通じますが、それを会社に持っていくとまったく違ってしまうのです。なぜ全部やる必要があるのか、売れ筋だけやればいいんじゃないかなど、根本的な面に疑問を持つ人もいて大変でした。
岡部 社内で理解を得るのは難しいですね。多言語サイトをつくっても、次の日から売上が上がるわけではない。一方で業務は増えるわけで、前向きに捉えてくれる人ばかりではありません。だからこそ、流通システム開発センターさんがサービスの運営母体となってくれた意味は大きいと思います。どこか特定の企業が勝手にやっていることではなく、国も製・配・販も一体になって実現しようとしているオールジャパンの動きだという事実が、会社を動かす力になると思うのです。
田上 その通りです。当初は、誰が運営するのかを長い時間をかけて話し合い、流通システム開発センターさんに運営母体として、データプールを用意いただくことになりました。まだ先が見えないサービスにも関わらずお引き受けいただいたからこそ、私たちもここまで来られました。とても感謝をしております。もちろんリスクを一方的に負っていただくわけにはいきませんので、サービスが安定提供できるまでは、私たちも責任を持って取り組まねばなりません。


国際的イベントまでに商品情報の充実を

染矢 メーカーとしてインバウンド対応を考える際、儲けたいという視点は当然あるでしょう。ただし、それは後から付いてくるものです。我々は、買い物の場面で実際にお客様が困らないことが、一番大事だと考えています。
 たとえば日本の歯磨きペーストとハンドクリームのパッケージは、見た目では区別がつきません。最低限それが何であるかわからないと、外国人客は気楽に買い物ができないわけです。爆買いがブームの頃は、買うものの型番まで決めてから訪日していたようですが、最近は外国の方も店頭で商品を見て選ぶようになってきています。だからこそMulpiは非常に役に立つツールになるだろうと思います。
川端 実証実験で特に興味深かったのは、Mulpiのアクセスログです。小売業の立場として、売上情報はPOSやID-POSで性別、年齢、時間などを常に見ていますが、外国人のお客様については、現状では情報を把握するすべがありません。その役割をMulpiが果たせるのではないでしょうか。
 メーカーも卸売業も小売業も皆さんが本当に知りたいのは、今売れている商品ではなく、次に外国人客に売れそうな商品です。Mulpiのログを解析すれば、外国人客の閲覧数が伸びている商品、落ちてきている商品などの動向がわかるので、次のヒット商品を探り出すのに有効だと期待しています。外国人客向けに次のヒット商品を生み出すためには、Mulpiに登録したほうが有利であることを知っていただきたいですね。
斎藤 多言語のホームページを自社でつくっても、そのままではなかなかアクセスは増えませんが、Mulpiを活用すれば自社サイトへのアクセスを促すことができる点もメーカーのメリットだと思います。
 この取り組みはオールジャパンで、商品のジャンルも限定せず、店頭に並んでいるものはすべて対象にしようとしています。訪日外国人客をお迎えするオールジャパンのおもてなしサービスとして、本当に実りあるものにしたい。そのためにも、一部のやる気があるメーカーだけでなく、すべてのメーカーに参加いただきたいですね。
岡部 今、これだけ人が行き交い、情報が行き交う世の中で、物も世界を行き交うのが当たり前の時代になりました。35億人という世界の人口の半分を占めるアジアの成長マーケットをどう取り込むかは、日本企業にとって大きな命題です。
 ついこの間まで500万人前後だった訪日外国人客が、昨年には2,800万人を超え、さらにこの先、4,000万人、6,000万人を国は目指しています。彼ら訪日外国人客は、日本のことを母国に情報発信してくれるメディアだと私は考えています。日本に来て、いい商品に出会えば、無料でその国の言葉に訳して情報を発信してくれるのです。それら大勢の特派員の発信力を逃す手はありません。私たちは、そのための一つの手段をつくりました。各企業はこれを使って自分たちの商品をどう世界に売って行くかを考え、積極的に活用いただきたいと思います。
田上 このプロジェクトを始めるにあたり、流通システム開発センターさんとジャパン・インフォレックスさん(食品業界DB)と一緒にスペインやスウェーデンなどをまわり、商品の情報活用における先進的な取り組みを視察してきました。世界を見ると、日本が遅れていることを実感します。ただ、今回の多言語化に関しては、まだどの国もやっていない取り組みであり、成功すれば世界初の事例になると思います。
 2019年、2020年と大規模な国際イベントが控えています。激増する訪日外国人客に向けたオールジャパンの買い物支援として、早急にMulpiを実用レベルまで充実させなければいけません。有志の皆さんの尽力によって生まれた共通インフラを、流通業界全体の有効なツールとするため、各メーカー様には商品詳細情報の登録をお願いしたいと思います。

(※1)日本TCGF(The Consumer Goods Forum)「ユニバーサルアクセス委員会」 : 2011年11月22日、イオン、三菱食品、キリンホールディングス、花王など消費財関連の小売業、卸売業、メーカーの29社が集まって発足した団体。
(※2)QRコード : デンソーウェーブの登録商標
(※3)JICFS分類 : 流通システム開発センターが推進する商品カテゴリー分類
(※4)薬機法 : 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の略称。制定当初の題名は薬事法であったが、平成26年11月25日の薬事法等の一部を改正する法律(平成25年法律84号)の施行により現在の題名に改められた。