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商品情報多言語化に業界はどう向き合うか
オールジャパンで取り組む訪日外国人客への買い物支援

多言語商品情報提供サービスとは

西山 智章 さん
一般財団法人
流通システム
開発センター
コード管理部 担当 理事

上田 俊秀 さん
一般財団法人
流通システム
開発センター
コード管理部 次長

訪日外国人客向けの商品情報提供による販売促進、そしてメーカー発信の正確な商品情報の収集・提供サイクルの確立を目指す「多言語商品情報提供サービス(Mulpiマルピ)」の運用が開始された。これは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた、オールジャパンによる多言語化の取り組みの一環となるプロジェクトだ。同サービスの運営を行う流通システム開発センターにお話を伺った。


(PLANET vanvan 2018年夏号(Vol.119)掲載記事より)

訪日外国人客への多言語対応は製・配・販一丸で

 訪日外国人客は現在も大幅に増加し続けており、2017年には、2014年のおよそ2倍となる過去最高の2,869万人に達した。観光庁の「明日の日本を支える観光ビジョン」では、2020年に4,000万人、2030年には6,000万人という目標が設定されている。
 訪日外国人客の年間消費総額も、5年連続で過去最高を記録し、2017年には初めて4兆円を超えたという速報が発表された(観光庁「訪日外国人消費動向調査」)。その内、買い物による消費の割合は約37%を占める。人口減少で国内需要の拡大が見込めない中、訪日外国人客は流通業界にとって、今後も伸びしろが期待できる重要なマーケットであることは間違いない。
 ところが、訪日外国人客に対する商品情報などの提供は、いまだ十分に行われていないのが現状だ。訪日外国人客が店頭で買い物をする際、言語の問題で商品の用途や用法などがわからず不満や不安を感じるケースは多く、それが販売の機会損失にもつながっている。参考までに、2017年にプラネットが行ったアジア6カ国・地域でのインターネットによるアンケート調査(「インバウンド消費を拡大させる意識と行動2017」)でも、「日本での買い物で困ったこと」として、商品説明や案内表記の多言語対応が不十分であることを挙げる人が多かった(表1)。
 こうした背景を踏まえ、製・配・販連携協議会(*1)は、「訪日外国人客に向けた商品情報の提供は、メーカー、卸売業、小売業共通の課題である」との考えから、2015年度に有志による商品情報多言語対応ワーキンググループを立ち上げた。さらに翌2016年11月、商品情報多言語フィジビリティ・スタディ・プロジェクト(*2)での検討をもとに、プラネットの環境を使って実験用システムを構築。店頭で訪日外国人客(中国人観光客)を対象に実証実験を実施した。その結果、被験者の8割強がサービスの有用性を評価、8割弱が利用意向を示したことから、製・配・販連携協議会 多言語商品情報プロジェクトとして、具体的な仕組みを構築し、実運用することとなった。


スマートフォンアプリで商品カテゴリーを多言語表示

 今回の「多言語商品情報提供サービス(Mulpi)」の概要は、以下の通り。
 訪日外国人客が自分のスマートフォンで店頭の気になる商品のバーコードを読み取ると、当該商品のメーカー名、商品名、商品画像に加えて、商品カテゴリー名が英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語のいずれかで表示される(※)。またメーカー自身の多言語による商品詳細情報のウェブサイトがある場合は、当該ページがスマートフォンに表示される(P.7参照)。

    ※カテゴリー表示例 : 日本語…シャンプー、英語…Shampoo、中国語(簡体字)…洗发液、中国語(繁体字)…洗髪精、韓国語…샴푸

 多言語対応用商品情報データプール(DP)の管理・運用は流通システム開発センターが行う。商品基本情報は、プラネットをはじめ、セルフメディケーション・データベースセンター(OTC医薬品類)、ジャパン・インフォレックスのFDB(食品類)の各業界商品データベースから提供されるため、商品情報が初めから揃うことになる。それ以外の商品基本情報については、流通システム開発センターが登録を受付け、提供していく。こうしてOTC医薬品から順次拡大し、各業界データベースあわせて約12万件の商品情報のMulpiへの連携が今、進められている。なお、この多言語対応用商品情報DPは、メーカー発信の正確な商品情報伝達インフラとして、商品情報を適切に取り扱いできると認定されたベンダーにも提供していく(図1)。
 「 メーカー発信の正しい情報を訪日外国人の方に使っていただきたいという、製・配・販の一致した思いが、このプロジェクトを支えています」と流通システム開発センター理事の西山智章さんは語る。
 「 訪日外国人客向けの多言語商品情報は、不特定多数に向けたB to Cのやり取りになります。メーカーは責任をもって情報を提供しなければなりませんが、個別に対応すると負荷は大きく、徹底も難しい。業界の共通インフラとして商品情報提供サービスを構築し、B to Bで培われたプラネットなどの業界データベースを活用できることは、作業負荷やコストの軽減、情報の網羅性など多様な面で非常に有意義です」(西山さん)。


多言語の商品詳細情報の充実がカギ

 Mulpiへ連携されているデータは商品基本情報であり、このままの状態では、すでに商品詳細情報を登録している一部メーカーの商品を除き、多言語表示されるのは商品カテゴリーのみだ。そこで今後、いかに各商品の詳細情報の登録を増やしていくかが重要となる。
 食品や日用品、化粧品、OTC医薬品などは、いずれも訪日外国人客の購入率が高い商品だが、中でもOTC医薬品業界は、早くから積極的にこのプロジェクトに取り組んできた。OTC医薬品はその特性上、商品の使用目的や用法、容量などの情報を正確に購入者に伝えることが必須であり、早急な多言語化対応が求められているためだ。現在、業界をあげて添付文書の英語化も推進しており、その準備が整い次第、Mulpiで英語版添付文書も閲覧できるようにしていく予定だ。
 「 当サービスは、商品詳細情報まで多言語で表示されるのが理想です。訪日外国人客の買い物の利便性を高めるためにも、1社でも多くのメーカーにご賛同いただき、商品詳細情報を充実させていくことがこれからの最も重要な課題です」と、多言語商品情報プロジェクトの事務局を務める流通システム開発センターの上田俊秀さんは言う。
 メーカーが商品詳細情報をMulpiに連携するには、会員登録をした上で、自社の多言語商品情報が掲載されたホームページへリンクを貼るという流れとなる。商品詳細情報を掲載することで、メーカーには次のようなメリットがもたらされると期待できる。
・訪日外国人客に対してメーカー発信の正しい商品詳細情報を極めて低コストで提供可能
・訪日外国人客向けの自社商品情報(Webサイト)へのアクセスを容易にし、サイトを活性化できる
・訪日外国人客に対して商品の正しい用法、注意事項などの情報提供ができる
・訪日外国人客に対し、自社商品をアピールし購買を促進できる
・得意先などへの個別の多言語化対応が不要となる
・自社の商品詳細情報に対するアクセスログがフィードバックされるため、マーケティング活動に活用できる
 メーカーによる商品詳細情報の登録が進めば、卸売業、小売業もそれぞれの多言語対応の負荷が軽減し、また、販売促進につながるなど、流通業全体としてのメリットは大きい。
 「 最近は、日本に来て店頭で商品を選ぶ外国人客が増えています。その場でスキャンして詳細情報が見られるMulpiは、訪日外国人客に向けた販売促進の有効なツールとなりえます。ぜひ多くのメーカーに商品詳細情報を登録していただき、業界全体として訪日外国人客へ向けた販促を盛り上げていきたい」と西山さんは取材を結んだ。
 2019年にラグビーワールドカップ、そして2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されるため、訪日外国人客のさらなる急増が見込まれる。多言語商品情報提供サービスという流通業界の共通インフラを、製・配・販が協力し、早急に充実させることが極めて重要である。

(*1)製・配・販連携協議会とは : 消費財分野における製・配・販の連携により、サプライチェーンマネジメントの抜本的な改革、改善を図り、産業競争力を高め、豊かな国民生活への貢献を目指すことを目的に、メーカー22社、卸売業9社、小売業22社の計53社が参加(2018年4月現在)。経済産業省支援のもと、一般財団法人流通システム開発センターと公益財団法人流通経済研究所が共同して運営。
(*2)商品情報多言語フィジビリティ・スタディ・プロジェクト参加メンバー(製・配・販別五十音順) : 味の素、花王、佐藤製薬、資生堂、第一三共ヘルスケア、大正製薬、武田コンシューマーヘルスケア、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン、ライオン、ロート製薬、伊藤忠食品、国分グループ本社、イオンリテール、ファミリーマート、マツモトキヨシホールディングスの15社。