株式会社プラネット

HOME > 知る・役立つ・参加する > 広報誌 PLANETvanvan > 流通の次世代を考える

流通の次世代を考える

消費財流通業のグローバル展開

【タイ・卸売業編】森友通商株式会社 / MORITOMO(THAILAND)CO.,LTD.
当社は本誌を通じて、消費財流通業がこれからの海外展開を考える上で参考となるような情報を提供していきたい。今回はタイ取材のシリーズ2回目として、卸売業の森友通商株式会社をご紹介する。同社は初の海外拠点として、2009年にタイ・バンコクへ進出し、着実に実績をあげてきた。なぜタイを選んだのか、タイで仕事をする上でどのようなことに苦労したのかなど、東京本社及びMORITOMO(THAILAND)社で話を伺った。

森友 徳兵衛 さん
森友通商株式会社
代表取締役社長

早水 由 さん
森友通商株式会社
取締役副社長

川浦 重樹 さん
MORITOMO(THAILAND)
CO.,LTD.
Managing Director

(PLANET vanvan 2018年冬号(Vol.117)掲載記事より)

海外市場には無限の可能性

 創業160余年の老舗卸売業、森友通商株式会社は、2009年にMORITOMO(THAILAND)CO.,LTD.を設立し、タイにおける地域密着型のビジネスを展開している。現在、現地に約40名のタイ人社員を雇用し、取り扱う商品数は約2,000アイテムにも及ぶ。業績は順調に推移し、売上高ベースで前年比125%の伸びを続けているという。
 バンコクでの現地取材に先立ち、東京・日本橋の森友通商本社を訪問し、森友徳兵衛 代表取締役社長にタイ進出の背景をお聞きした。
 「今後日本国内は人口が減少し、市場はどんどん縮小していきます。狭い中でパイを奪い合って生き残っても意味はありません。一方、世界へ目を向ければ、まだまだ無限の可能性が広がっています」と森友社長は語る。2000年代前半、多くの企業が海外展開先として中国をあげる中、あえて日本の卸売業がまだ1社も進出していなかったタイ・バンコクを選んだ。
 「タイは財閥系企業が力を持っており、保護主義政策によって新規に外資系企業が入るのは難しいとされています。また、既存の流通の仕組みも日本とは異なるため、他社も二の足を踏んでいました。しかし、タイは大変な親日国で、日本人や日本製品に対して良い印象を持っています。事業を始める上で、そうした文化的背景や国民感情は重要だと私は思いました。誰もやっていないからこそ、勇気をもって初めに行動に移すことに意味があります。無から有を生むことができるのです」。
 こうして森友社長の発案により、2009年のタイ進出が決まった。社長は今も年に数回、現地を視察しているそうだ。


日本の流通のレベルの高さを実感

 バンコク・サラデーン駅周辺は、日本企業や日本食レストランも多いビジネス街である。
 MORITOMO(THAILAND)はここにオフィスを構えている。出迎えてくれたのは、森友通商副社長の早水由(ハヤミユウ)さんとMORITOMO(THAILAND)のManaging Director 川浦重樹さん。タイにおける実際の事業展開は、この2人が中心となって進めてきた。
 「文字通りゼロからのスタートでした」と、両氏は振り返る。今から約8年前、手つかずのマーケットに第一歩を踏み出したものの、初めは日本から輸入する方法すらわからなかった。タイ人社員を1名だけ雇い、役所から資料を取り寄せ、手続きを一つ一つ調べることから始めた。今でこそネット申請も可能だが、当時は役所の窓口へ申請書を持って行っては突き返され、何度も修正や再提出を繰り返したという。結局、洗顔石けん1アイテムの輸入の認可が下りるのに、数か月もかかった。
 「前例が無いので誰かに教わることもできず、本当に苦労しました。でもその苦労が、今日の私たちの力になっていると思います。他人任せにせず、自分たちで正式な手順を踏んだことで、徐々にタイにおけるビジネスの進め方の要領をつかむことができたのです」と早水さんは言う。最初の1アイテムの輸入認可が下りたことで手応えを感じ、その後少しずつ輸入アイテムを増やして、事業を形作っていった。
 実際に仕事をしていく上で、国による違いに驚くことも多かったという。タイ人は細かいことにあまりこだわらないようで、約束の時間などは気にしない。たとえば14時の商談アポイントで相手が14時55分にやって来ても、それが大きな問題にはならないのだという。
 また、タイは日本に比べ人件費が安いため、システム化によって効率を上げようという動きはほとんど見られず、EDIのような仕組みも発想もない。大手とされる財閥系企業でさえ、数年前まで商品の発注はカーボン用紙で行っていた。
 「プラネットのEDIをはじめとする日本の流通業のインフラがいかに先進的で優れたものであるか、海外に来て改めて実感しました。日本の当たり前が、海外でも当たり前とは限らないのですね。文化や国民性のギャップは現地に来て初めてわかるもの。その中でどう動くか、それが各企業の判断になると思います」(早水さん)。


自分たちのスタンダードを追求

 “郷に入っては郷に従う”べき部分は勿論ある。ただ、森友通商としては、あえて自分たちのスタンダードである“日本式のやり方”を貫くことを意識したという。
 たとえば輸入申請や通関にしても、煩わしい手続きを避けて、現地の代理人を使うなどの方法はあったかもしれない。しかし、余計な手間がかかっても、自社で正規の手続きを行うことにこだわった。あるいは、納期や時間、約束を守るといったことも徹底した。これらは日本のビジネス社会では当たり前でも、タイで実行するのはなかなか大変だったそうだ。
 また、日本と違って小売店は取引をする条件として、棚代や登録費といった非常に高額なフィーを提示してくるのが一般的である。とても払えるような金額ではないので、必ずや売買差益で貢献するので、チャンスをくれるように必死に頼みこみ、応じてくれた小売店の小さなスペースで、消費者に購入いただけるように創意工夫を重ねていった。そして、実際に高い売上を達成し、実績を示すことで、少しずつ信頼関係を築いていった。
 こうした地道な努力や工夫を重ねていった結果、徐々にタイ国内で評価されるようになり、財閥系大手企業や欧米系小売チェーンなどの取引先から、仕事のパートナーとして認められるようになった。
 また、これとは別の影響として、日本式のやり方を追求し続けることで、社内のタイ人社員にも変化が見られるようになってきたと、川浦さんは言う。
 「たとえば以前は、遅刻は別に問題ないという雰囲気が社内にあったのですが、最近になって、9時にアラームが鳴る時計を設置したいと、社員のほうから言ってきました。時間を守る大切さが仕事に良い影響を及ぼすと気付いたようです。会議での発言などを見ていても、仕事に対する責任感を感じ取れます。我々が正しいと思うやり方、考え方を伝え続けていれば、社員の意識も自然と変わってくるものなのですね」(川浦さん)。
 自分たちのスタンダードを貫くことで、それを理解できる社員が残り、会社の文化として育まれていく。こうした社内の変化が、いずれ周囲の取引先へと広がっていけば、よりスムーズにビジネスができるようになっていくだろうと期待している。


中小企業にこそ挑戦してほしい

 森友通商が、今後のタイにおける方向性のキーワードとしてあげるのは“効率化”だ。基幹業務など、システム化は徐々に進んできてはいるが、日本のEDIのような流通の仕組みが受け入れられるのはまだ先になるだろう。それは逆にいうと、タイにはまだまだポテンシャルがあるということ。現状でも市場が回っているのだから、テコ入れすればさらに市場は広がるに違いない。日用品・化粧品に限らず、より多様なジャンルの日本製品を輸入販売できる可能性も広がっている。
 「ただし、無理に成長を目指すより、やるべきことをコツコツやっていくことが大事だと思っています。当社は卸売業ですが、メーカーの販売会社機能の側面もあり、店頭での販売促進や企画立案も行っています。そうしたサービスの質と幅を広げて、タイでのビジネスをしっかりと構築したい。その先でチャンスがあれば、いずれ周辺国へも拡大をしていきたいと考えています」と早水さん。「排他的ともいわれるタイ市場ですが、私たちは小さな会社だからこそ、その中に思い切って飛び込み、入りこむことができたのだと思います」とインタビューを締めくくった。
 海外進出には大きな先行投資が必要で、大手企業にしかできないというイメージが確かにある。だが、決してそうではないはずだ。機動力によってフロンティアを切り開いた同社の事例に学ぶべき点は、多い。