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流通の次世代を考える

消費財流通業のグローバル展開

バンコク共同受注センター活用事例(後編)
最近増えてきた海外BPO※とは、どのようなものか。前号でご紹介したタイ・バンコクの共同受注センターを利用したBPO導入事例について、実際に現地のセンターを取材した様子をレポートする。
※Business Process Outsourcingの略。企業運営上の業務やビジネスプロセスを専門企業に外部委託することを指す。

内村 弘幸
トランスコスモス株式会社
常務執行役員

谷藤 貴仁
transcosmos (Thailand)
Co.,Ltd.
Service Delivery
Department
Department Manager

鈴木 哲
transcosmos (Thailand)
Co.,Ltd.
Service Delivery
Department
Team Leader

立崎 邦子
transcosmos (Thailand)
Co.,Ltd.
Service Delivery
Department
Team Leader

谷口 こずえ
transcosmos (Thailand)
Co.,Ltd.
Service Delivery
Department
Team Leader

(PLANET vanvan 2017年秋号(Vol.116)掲載記事より)

バンコク共同受注センターを訪問

 消費財流通業界においても、海外展開はこれからの重要な戦略の一つとなってくる。しかし、初めて海外進出を検討する企業は、わからないことも多く、なかなかはじめの一歩が踏み出せないのではないだろうか。
 プラネットは、そうした企業に少しでも役立つ情報を提供していきたいと考えている。その一環として、本誌では前回、海外BPOサービスを導入し、2012年よりFAX受注業務をタイのバンコクにある共同受注センターに移管したSunstar Groupの事例をご紹介した。
 この共同受注センターは、トランスコスモス株式会社が2008年にバンコクに設立したもので、日本企業のオフショア(※1)業務に関しては、現地の日本人スタッフが担当している。センターが海外にあることのメリットは何か。実際の現場では、どのように業務が行われているのか。海外BPOの実態を学ぶため、今回、Sunstar Group経営統括本部の荒木協和理事とトランスコスモス(タイ)にご協力いただき、現地の受注センターを見学・取材した。


“ここは日本?”と錯覚するような環境

 東京からバンコクへは直行便で7時間程度。取材に行った8月は、タイでは雨季に当たるが、ほとんど雨は降らず晴天に恵まれた。懸念された暑さも、正直、東京とさほど変わらない印象だ。空港からバンコク市内へと向かう途中、目に入る風景は都会そのもので、建設中のビルの多さと街の活気に驚かされる。
 ちょうど日本では、大きな台風が関西を通過するタイミングだった。バンコク市内で合流した荒木さんは開口一番、こう言った。
 「関西は今、台風の影響で天気が大荒れで、大阪府高槻市にある私どもの受注センターは今日の午後、休みになっています。通常ですと午後からの問合せが不可能になりますが、お客様から高槻に入った電話は、すべてこちらのセンターに転送されるため、業務には何の支障もありません。バンコクでのBPOが、BCP(※2)対策としても非常に有効であることがおわかりいただけるでしょう」。
 共同受注センターは、バンコク中心街に建つ高層ビルの1フロアにあった。部外者は立ち入り禁止だが、今回特別に入室させてもらう。
 オフィスにいる20数名のスタッフは、30代の女性が中心で、全員が日本人。壁やボードには日本語の掲示物が貼り出され、交わされる会話もパソコンの画面も、当然日本語だ。各自がデスクに向かい粛々と仕事をしている様子は、日本のオフィスと全く変わりがない。一瞬、ここは本当に海外なのかと、不思議な感覚になる。
 この受注センターでは、FAXによる受注を一元的に処理し、出荷伝票や請求書等の発行を行っている。タイと日本の時差は2時間なので、就業時間は日本時間に合わせて朝7時から4時まで。なお、サーバー自体は日本にあり、たとえば担当者が日本に出張した際には、通常業務をそのまま日本で行うこともできる。


生き生きと働く現地スタッフ

 Sunstar Groupからは担当者が年に数回このセンターを訪れ、業務の確認と共有をするとともに、積極的にスタッフとコミュニケーションを図っている。
 「彼/彼女たちはバイタリティがあって、どんな状況でも柔軟に対応してくれるので、とても信頼しています」と荒木さんは言う。
 現地スタッフの方々にもお話を聞いてみた。鈴木哲さんは、トランスコスモス(タイ)勤務11年目のベテラン。海外で生活したいとの思いから、タイに渡って入社試験を受けたという。Sunstar Groupのプロジェクトには4年携わっており、現在はチームリーダーを務めている。
 「このプロジェクトは、業務委託というより、一緒にやっていきましょうというスタンスでクライアントが接してくれるので、とても働きやすく、長く続けている人が多いですね。私自身もやりがいを感じています」。
 リテール担当の立崎邦子さんは、プロジェクト立ち上げ直後からメンバーの一員だ。
 「はじめの頃はルールもまだ確立されておらず、失敗もたくさんありました。それらを教訓に、どこでも、誰でもできるようコーディングの共通化を図り、体制を整えました」と立崎さん。FAXの文字がつぶれて読めない時には客先に電話で確認するが、もちろんタイからの電話と気づかれることはないそうだ。
 谷口こずえさんは、請求書の発行や売掛金の回収などのバックオフィス業務を担当している。姉夫婦がタイで暮らしている縁で、バンコクで働くようになった。当初は異国での生活に不安もあったが、「バンコクは暮らしやすい街で、すぐに生活にも慣れました。平日は会社勤めで日本と同じですが、お休みには、少し足を延ばせばきれいなビーチなども多く、オンオフを切り替えて楽しんでいます」という。


海外BPOという選択肢

 現在、トランスコスモス(タイ)には、100名ほどの日本人が在籍している。センターを統括する谷藤貴仁さんは、日本人を雇用するための体制として次のような要点を挙げた。
 「海外で日本人によるBPOを計画したとき、3つの課題があります。一つが通信に対する信用性。次に人材の確保、そして安全性(治安や医療)です。バンコクの場合、この3つが非常に安定しています。特に日用品雑貨業界の場合は、プラネット様により情報が標準化され、通信も一本化されているため、非常に安定したシステム対応が出来ています。日本人が海外で働くにはさまざまな手続きが必要ですが、当社には日本語ができるタイ人スタッフもいて、ビザの取得などをサポートしています。また、医療保険や健康診断などのインフラを整備し、初めて海外で働く方でも、安心して働きやすい職場環境になっています。ただ、海外ということでどうしても人材の流動性は高いので、新しく採用した方が即戦力となるよう、研修制度にも力を入れています」。
 また、トランスコスモス株式会社常務執行役員である内村弘幸さんは「各自の帰国に合わせて日本国内での研修も定期的に行っており、タイで障害が発生した際には、すぐ日本へ移動して業務が継続できるようになっています。現在の国際社会では、災害、経済、紛争などのリスクは、いつでも何処でも発生する可能性があります。そのため、止めてはいけない業務については、まったく違う環境下に複数設置し、それを最低のコストで運営することが有効な手段だと考えています。弊社では、日本に55箇所、海外に119箇所のBPO拠点を設置しサービスを提供しています」。
 今回、バンコク共同受注センターを取材して、海外に拠点を持つことは、BCPの観点からも利点があることを実感した。また、日本人スタッフが対応するBPOであれば、海外の事業で懸念される言語や文化の壁はあまり感じることがない。まずはこうしたサービスを利用して、海外進出の足掛かりとするのも一つの方法かもしれない。
 もう一つ印象的なのは、市場としてのタイの魅力だ。タイは親日国であり、経済圏も広く、都市部の交通インフラも整っている。今回は、バンコクで事業を展開する卸売業、小売業の事例も取材しているので、それらについては改めてご紹介したい。

※1 コールセンター、バックオフィス、IT開発拠点などの業務を海外で行うこと。
※2 Business Continuity Plan(事業継続計画)の略。災害などの緊急事態が発生した時に、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧を図るための計画。