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会長の読書

なぜ私は「中国」を捨てたか (石 平著、ワック)

 書店でちょっと気になり、パラパラとめくってみた。すると、石田梅岩、金谷治、宇野哲人などの活字が目に入った。近頃の中国人は論語を知らない。だが、この著者は日本人でも知らない人が多い日本の儒者や碩学に言及しているとは! この中国人は何者なのか。

 寡聞にして知らなかったのだが、著者の石平(せき・へい)は「なぜ中国は日本を憎むのか」(PHP出版、2002年)を著し注目された人物で、主として保守系の雑誌に多くの評論を発表しているため、気づかなかったようだ。

 石平は毛沢東時代に幼年時代をすごし、徹底的に共産党教育を受け、中国こそが人民を幸せにする唯一の国だと信じ込まされていた。ただし、漢方医だった祖父に孔子の言葉を暗記させられた。当時はそれが何だか分かっていなかったのだが、紅衛兵が跳梁する文化大革命の時に祖父がノートを焼く姿が脳裏に焼きついているという。

 毛沢東から 鄧小平になると「改革開放」路線となり、これに期待した多くの若者によって民主化運動が盛んになる。石もこの運動に身を投じる。しかし、 1989年「天安門事件」によって裏切られる。祖国のためを思い中国近代化の夢を見た若者達は人民解放軍によって殺されたのだが、幸い、石は留学生として日本に滞在していたため、難を逃れた。

 数千万人もの餓死者を出した失政を糊塗するため文化大革命を巻き起こした毛沢東、改革解放を唱えたにもかかわらず天安門で多数の若者を殺した鄧小平、そして今は民主化運動の矛先を逸らすための反日教育。権力のためなら自国民をも犠牲にする中国共産党の一党独裁体制は非常に危険な存在であると石は指摘する。

 石が来日すると、好戦的で野蛮なはずの日本人が自分をやさしく迎えてくれた。そして、日本人の礼儀が中国の儒教から来ていることを知る。徹底して論語などを排斥した文化大革命を体験した石は、日本の地に多くの儒教の理解者と敬愛者がいる姿を見て、感動する。また、李白や杜甫の漢詩も日本に生きていることにも、祖国中国と日本の違いに目を開かせられた。そして、いま石は「愛日主義者」となり、2007年に日本に帰化した。

 石は日本の社会的価値観や文化についてかなり勉強しているようで、バランスの取れた解釈をしている。特に、江戸時代に儒教がどのように醸成され社会に根付いたかに詳しい。幕末の偉人西郷隆盛の生涯について畏敬の念を持って数ページにわたって記述している。深い教養を有し詩歌を愛し、無私無欲を貫いた西郷南州を理解し礼賛してくれることは、日本人としてはうれしいことだ。

 いま、急速に力を付けてきた中国の実態を理解するのに、石の目線は頼りになる。

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