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会長の読書

日本経済、どん底への転落 (水谷研治著、NTT出版)

 1980年代に円高時代の到来を予言したことで知られる水谷研治氏は、2004年に「世界最強、名古屋経済の衝撃」(講談社)を書いた。当時、名古屋礼賛論が盛んであったが、国家経済より都市経済を論じる人が増えるなど、影響力がある読み応えのある面白い本だった。

 さて、一方の本書であるが、不思議な経済書である。数字がほとんど出てこない。グラフが1枚だけ、まるで、随筆のような記述が続く。

 日本国の景気が落ち込むと国内生産が減る、倒産・失業が増える、購買力が低下する、海外から買う量も減る、相手国の景気に影響を及ぼす・・・というような文章が次々と展開されている。分かりやすいともいえるが、平淡すぎて印象が薄い。

  国の借金が増え続けていること、空洞化が起こっていること、デフレからインフレに転換するであろうこと、円安や原料高が始まることなどによって、日本経済の凋落が始まり、底を突くところまで転落するだろうという論旨である。

 もちろん、その可能性があり、かなりの危機であることはわかるのだが、どのようなプロセスでどん底に至るのか、例えば国債の引受けを銀行が断ることがきっかけになるとか、スタグフレーションがどのようにして進行するのか、また、破綻をきたした外国の事例でそこに至ったプロセスなどを織り込んであれば、さらなる説得力があると思う。

 やはり、数量的な根拠もほしい。例えば悪性インフレになる前に改革が必要だが、それまでには10年間の余裕しかないとあるが、なぜ10年間なのか。数量的な説明があれば分かりやすい。

 名古屋経済について論じた著者であるが、夕張市の事例に触れているものの、膨大な借金を抱えている大阪府をはじめとする地方自治体の危機についても論じてほしかった。特に大阪府は、危機的状態にあるにもかかわらず抵抗勢力が改革を阻もうとしており、日本の縮図の様相を呈している。

 このようになった原因は、国家百年の計を考えず選挙民が自己の利益を国に求め続けてきたことだという。それが政治による過大な財政支出につながり、今日の危機を招いている。水谷氏は、その責任は国民が負わなければならないと論じつつ、終戦直後の本当のどん底から復興した日本国民の資質を信じたいと結んでいる。

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