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玉生弘昌(名誉会長)の読書

キリスト教の本質 (加藤 隆著、NHK出版)

 留学して博士号を取得した神学博士といえば、通常は神父か牧師になり、キリスト教の教義を基本として論じるのであるが、加藤隆教授は純粋な学問として客観的に論じている。
 そもそも、ユダヤ教徒だったイエス・キリストがユダヤ教に改良を加えた宗教がキリスト教である。したがって、ユダヤ教を理解しないとキリスト教を理解できないとして、本書はユダヤの記述に半分以上のページを割いている。
 ユダヤの始まりは旧約聖書の「出エジプト記」である。神の啓示を受けたモーゼはエジプトで奴隷のような境遇だったユダヤの民をエジプトから脱出させ、神が約束したという豊穣の地カナンにたどり着き定住するようになったというのが「出エジプト記」の概略である。カナンとは今のパレスチナである。
 安定した定住生活を得たユダヤ人は、神の恩寵を受けたと感謝して、ヤーヴェ(ヤハウェともいう)を唯一神として崇めるようになった。
 モーゼに導かれて神が約束してくれたという土地カナンに定着したユダヤ人は、ダビデ王とソロモン王によって王国を築くのだが、ヒッタイトなどの侵略によってユダヤの国は消滅してしまう。ユダヤ人は国を失うという大きな災厄を被ったにもかかわらず、神は一切助けてくれなかった。自分たちが信じている神が、助けてくれず、沈黙が続いているのはなぜか。それは自分たちが罪深いからだと理由付けをした。つまり、人は生まれながら罪(原罪)を負っている。だから、神の救いを得られない。したがって、戒律を守って敬虔な生活をしなければならないと、ユダヤ人は考えたのである。
 そこに、イエス・キリストが登場し、神のことばを預かったとして活動を始めた。本書によると、キリストの活動期間は短く1~3年で、実際に教えを広めたのは弟子のパウロなど十二使徒であった。弟子たちは、イエスは神の子で神が動いたと説いて歩いた。キリスト教ではイエスは神の子ということになっている。しかし、一神教で神が二人いてはまずいので、三位一体(神とイエスと聖霊は一体のモノ)を唱えた。
 加藤は、一神教も原罪も三位一体も人が作り出したことなのだと論じている。これ は、きわめて客観的な学問としての解釈である。
 その後、キリスト教はヨーロッパに広がり、そのキリスト教国が産業革命を成し遂げる。そして、その背景として、ドイツの社会学者マックス・ウェーバー(1864~1920年)は有名な著書『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』において、自分の職業を神から与えられた仕事、すなわち天職として勤勉に働き、ある程度の収入を得ると、自分は救われたと考えるという倫理観が近代産業化社会を支えたと論じている。
 このようにして、一歩先んじて近代産業国になったキリスト教国は、世界で支配的地位を保っている。
 なお、本書にはないのだが、旧約聖書を読んでみると、選ばれた民という言葉が何度も出てくる。そもそもノアの方舟に記されているように、神によって選ばれたノア一族だけが、生き残り、その後のユダヤの民の先祖となるため、もともとユダヤ教は選民意識が強いのである。幸い、キリストが博愛主義を唱えたため、選民意識が薄まり、世界に広がり、世界最大の宗教となったと見ることができる。
 欧米のキリスト教国を客観的に理解するためには、良い本である。

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