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会長の読書

徳川家康 新装版 (松本 清張著、KADOKAWA)

 NHKの大河ドラマの影響で、近頃、徳川家康がブームである。
徳川家康の小説と言えば山岡荘八の全26巻が圧巻の超大作であるが、司馬遼太郎の『覇王の家』と『関ヶ原』も納得させられた。いずれも、何十年も前に読んでいるのだが、さらに、意外な作家が書いている本を見つけて読んだことがある。
 それは松本清張の書いた『徳川家康』(昭和38(1963)年初版)である。社会派推理小説作家が書くのだから、批判的な物語になっているのではないかと思ったのだが、案に相違して家康こそが日本の平安をもたらした偉人として描かれていた。
 その松本清張の『徳川家康』が装丁を新たにして本屋に並んでいる。少し懐かしく思いながら、再読してみた。今さら、山岡荘八の26巻を読むのは無理と思うので、この松本清張の『徳川家康』を読むことお勧めしたい。コンパクトにまとまっていて、家康の生涯を学ぶことができる。
 大河ドラマでは、家康の旗印“厭離穢土欣求浄土”を家康の思いの軸として取り上げている。「汚れて厭な世の中を離れて、極楽浄土にすることを求めよう」と解釈したい。一般には「汚れて厭な世の中を離れて、浄土に行くことを求める」という解釈のようだが、家康が「戦なき世」を作りたいと望んでいたとしたら、前者のような解釈の方が合っていると思われる。
 さて、この“厭離穢土欣求浄土”の旗印が、松本清張の『徳川家康』には出てこないのである。私が、この旗印を知ったのは、確か司馬遼太郎の作品だったと記憶している。山岡荘八の大作の中にもなかったように思う。つまり、1960年代にはこの“厭離穢土欣求浄土”は知られていなかったのだと考えられる。
 時代小説は、歴史学の情報を元に記述するものだから、その時々の調査研究の成果によって変わっていくものである。
 以前に紹介した伊東潤の著書『天下大乱』は、関ヶ原における新発見「玉城」を織り込んで記述されている。近年の航空機によるレーダー調査で松尾山の後ろの山に大規模な城跡「玉城」が見つかり、豊臣秀頼を「玉城」に入場させ、金の瓢箪の旗印を掲げたいという石田三成の戦略構想が裏付けられた。『天下大乱』はこれを織り込んで創作されている。
 そして、家康は江戸を住みやすい街にするための治水工事と水道工事、さらには「武家諸法度」を制定するなど、その後の260年の太平の世の礎を築いたことも記述している。やはり、この松本清張の著作が家康について分かり易く素直に読める作品のように思える。

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