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会長の読書

「帝国」ロシアの地政学 (小泉悠著、東京堂出版)

 著者の小泉悠は、テレビにたびたび登場しているので、ご存じの方も多いことだろう。東京大学先端科学技術研究センターに所属してロシアの研究を続けている専門家である。
 近年、地政学が語られることが多くなっているが、最も盛んに語られているのがロシアだそうである。ソビエト連邦崩壊以降、盛んに地政学という言葉が用いられるようになったということである。
 ロシアは、ユーラシア大陸の中ほどに位置し、チンギス・カンを初めとする遊牧民による侵略をたびたび受け、常に戦いの中にあったと言えるだろう。そして、17世紀のロマノフ王朝以来、領土拡張を進め、とうとうバルト海沿岸への進出に成功して海洋への出入口を確保した。
 第二次世界大戦では、大きな痛手を被ったもののナチスドイツに勝ち、その後も、アフガニスタン、チェチェン、そしてウクライナへの侵攻と絶え間なく戦争を続けている。基本的に、ロシア人は軍隊好きなのだそうである。軍隊経験者には「ゲオルギーのリボン」が配布されていて、多くの人がそれを誇らしげに付けているそうだ。
 共産主義の経済体制はうまく行かず、1991年ソビエト連邦は崩壊。ウクライナを初め多くの周辺諸国が独立することになったのだが、このことをプーチン大統領は「20世紀最大の地政学的悲劇である。数千万人の我が国民と同胞がロシアの領域外にいることになってしまった」 と述べている。約2千6百万人とも言われるロシア系住民がロシア連邦の国境外に取り残されたのは事実である。プーチン大統領の尊敬する人物はピョートル大帝だということなので、プーチンは大国志向なのであろう。そして、プーチンは取り残されたロシアの民を助けるのだという名目でクリミア半島を併合し、さらにウクライナへ侵攻した。
 小泉悠はロシア語に堪能のようだ。次のように記している。ロシア語には、「~で」という前置詞には2つあり、国のような大きなものには「ヴ」小さなものには「ナ」を用いるが、ソ連の一部であったウクライナには慣例的に「ナ」が用いられていた。ウクライナが独立後は「ヴ」を用いるべきだとの論争が行われているそうだ。小泉悠は元ソ連だった周辺国にもたびたび訪れ、そこの住民がロシア語をしゃべっている人がどのくらいいるかレポートしている。ロシア語をしゃべる人がいると、それをもってロシアはその国はロシア人の領域であり、そうした人々を守らなければならない「歴史的義務」を負っていると考えているということである。
 また、ロシアでは主権国家とそうでない国を区別している。上位の国が存在しその影響を受けている国は主権国家ではないという見方をする。日本はアメリカが上位にいて主権国家ではないと見られているため、北方四島問題の交渉は今後も難航するということである。
 最後の章では北極海について述べている。北極海を囲む陸地のおおよそ40%がロシア領であるため、今後、新たなロシア流の地政学の舞台になる可能性は大きいと記されている。

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