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会長の読書

プロジェクト・ヘイル・メアリー (アンディ・ウィアー著、早川書房)

 友人に勧められて、久しぶりにSF小説を手にした。
 主人公のライランド・グレースが目覚めるところから物語が始まる。昏睡状態だったようだ。目覚めても、どこにいるか自分が誰であるかも分からない。しかし、次第に覚醒し、重力が地球と異なることに気づき、宇宙船の中に一人でいることを理解する。
 グレースが宇宙船に乗る以前の地球では、科学者たちによって太陽が冷え始めていることが観測され、約30年で地球上の生物は絶滅することが予想されていた。それは、太陽から伸びている赤外線を発する謎のラインが熱を奪っているのが原因であった。ペトロヴァ・ラインと名付けられたそのラインを調査するため、ペトロヴァ・ラインに向かった探査船がサンプルを持ち帰る。そのサンプルを調査したところ、10ミクロンほどの不透明な粒の集合体で、それが生きていることが分かる。グレースが“アストロファージ”と名付けたその生きた粒は、驚くことには、エネルギーを物質に、物質をエネルギーに変えることができるという、まるで小さな原子爆弾のような能力を持っている。その能力で強力な赤外線を放射し、光速に近い速度で宇宙を群れを成して飛んでいる姿がペトロヴァ・ラインとして観測されたわけである。
 さらに調査が進むと、太陽だけでなく、宇宙の多くの星にペトロヴァ・ラインが到達していることが分かるのだが、しかし、ペトロヴァ・ラインが避けている星があり、それがなぜなのかを調べることになる。それが分かれば、太陽が冷えるのを防止できるかもしれない。調査対象はくじら座にあるタウ・セチという星で、約12光年離れている。地球の技術者は、“アストロファージ”を燃料とすることに成功し、光速に近い速度でタウ・セチに向かう宇宙船ヘイル・メアリー号を建造し、宇宙飛行士3名を乗せて出発させる。グレースはその一人となったのである。
 十年以上の昏睡から覚めたグレースを乗せたヘイル・メアリー号がタウ・セチに近づいたところで、異星人の宇宙船に遭遇する。その異星人もペトロヴァ・ラインの謎を探るためにタウ・セチに近づいていた。異星人は、アンモニアを呼吸するというまったく異なった進化を遂げた知的生命体だったのだが、友好的に協力することになる。
 というのが上巻のおおよそのあらすじだが、下巻でも面白い展開が進む。しかし、これ以上物語を明かすわけにはいかない。
 久しぶりに読んだSFだが、非常に高度な科学的知識をもって書かれていることに驚いた。多分、天文学や物理学の専門家が読んでも、納得するのではないかと思われる。
 秋の夜長の読み物としておすすめしたい。

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