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会長の読書

炎環 (永井路子著、文藝春秋)

 今年(2022年)の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は評判になっているようである。鎌倉の八幡宮に設けられた「鎌倉殿の13人 大河ドラマ館」は大勢の人でにぎわっている。脚本は三谷幸喜が執筆しているので、喜劇的な演出が随所に見られる。そもそも源頼朝役が大泉洋なのでコメディ的で、それが視聴者の好感を得ているのかもしれない。
 ドラマでは、北条時政の長男の宗時、次男の義時、長女の政子、妹の保子の家族の中に頼朝がやってくることになっているのであるが、その家族のキャラクターの描写が、この本にあるそれぞれの個性の描き方とそっくりである。ということは、三谷が脚本を書くにあたりこの書をネタ本にしていたのは間違いなくこの本であると思われる。
 800年も前の人々の個性が分かっているわけではないため、直木賞作家の永井路子は、多くの資料に基づいてそれぞれに個性を与えて小説にしているわけである。三谷はそれを踏襲しているようだ。
 第一編の「悪禅師」では、頼朝の異母兄弟の全成(ぜんじょう)が主人公となっている。全成の幼名は今若。弟は牛若、言うまでもなく義経である。頼朝の挙兵を聞きつけた全成は義経よりも早く京の醍醐寺から頼朝の下に駆け付けた。僧侶であった全成は戦働きではなく、事務方として勤め、政子の妹の保子を娶り、北条家とも姻戚関係となる。一方の義経は華々しい戦働きをするのだが、頼朝によって追討されることになる。全成は「お前だけが頼りだ」と多くの人に述べる頼朝の姿をたびたび目にして、兄である頼朝を信じられない思いでいる。肉親といえども、どんな目に合うか知れたものではない。そして、全成も謀反の罪を着せられて殺されてしまう。
 第四編の「覇樹」では、義時が頼朝とともに立ち、平家を滅ぼし、さらに比企一族、和田一族をも駆逐して、二代執権(一代は父の時政)となるいきさつが書かれている。義時は策謀家と一部では思われているが、本書では、若い時分はどこか頼りなく、いつも肝心な時にいなかったと書かれている。熟年になるにしたがって持ち前の観察力で的確な判断を下す為政者となっていく。承久の乱では後鳥羽上皇の兵を破り、上皇を隠岐に流し、その後長く続く武士の時代の扉を開いた。
 鎌倉には、関東武士団の内部抗争による殺戮がたびたび起こったという陰鬱な歴史がある。実は、鎌倉の海岸・由比ガ浜には火山由来の黒い砂の中に混じっている白い砂は馬と人の骨片なのである。つまり、本当は恐ろしい物語なのであるが、三谷流の脚本でおかしみのあるドラマとなっている。
 この本を読んで大河ドラマをご覧になることをお勧めしたい。

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