21世紀の資本 (トマ・ピケティ著、みすず書房)
2013年に発表され、2014年に日本語に翻訳された本である。4年前に読んだが、経済学史上の金字塔ではないかと思われるため、今回取り上げる。
当時は相当に評判になったのでピケティについてはご存知だと思うが、6,000円もするぶ厚い本であるので、買って読んだという人は少ないようだ。
ピケティは、歴史的格差問題として、ヴィクトル・ユーゴー、オノレ・ド・バルザックなどの文学作品を最初に紹介している。更に、経済学的な実証のため、時間と労力をかけてビッグデータを解析している。
結論として、ピケティは「r>g」つまりr=資本収益率がg=経済成長率を上回っている場合、格差が拡大すると論じている。この状態の時に、資本家はr%の利益を得るが、労働者の給料は経済成長率g%以下の増加にとどまる。経営者は経済成長率以上に給料を増やさないからだ。これらをデータで裏付けていて説得力がある。
人類史上多くの時代がr>gであったのだが、r>gではない状態とはどういう状態かというと、戦争が起こったときであるとしている。戦争になると生産に用いられる資本財が破壊される。一方で、生産拡大のため雇用が増え給料が上がる。政府は戦費を増やすために累進性のある税制にする。などによってrが小さくなり、格差縮小に向かう。
私見では、近年の格差拡大は、シカゴ学派のネオリベラリズムによって広められた市場原理主義によってもたらされたと認識している。共和党のレーガン政権時代に、小さな政府、規制緩和、減税という受け入れやすい言葉で、健康保険を縮小させ、税の累進性を弱め、相続税廃止法案も可決させ、格差拡大の方向に向かわせた。アメリカの富裕層の富の集中は凄まじく、フォーブスの長者番付によると、ウォルマートの創業者サム・ウォルトンの3人の子供たちの資産総額はアメリカ人の30%に相当するという。30%ということはアメリカ人約1億人分の資産をウォルトン一族が占有しているということである。ウォルトンの子供として生れて来ただけで、巨額の富を得るという世襲構造がある限り、格差の拡大は止まることはない。
日本でも、ネオリベラリズムの考えに基づいた市場原理主義、株主資本主義によって、給料の抑制が続き、格差が拡大した。
では、どうすればいいか。ピケティは累進性の高い税制、相続税の増税、などを提唱している。また、タックスヘイブンによる富裕層の逃避があるため、世界的な政策の同調が必要であるとしている。しかし、世界的な合意形成は極めて困難であろうとも述べている。
本書は、格差が間違いなくあるのだということを世界に認めさせる役割を果たせるものと思う。日本では「格差はある」と多くの人が認識しているが、欧米には「格差などない」のだと根強く主張する学者たちがいる。本書についても著しく偏見に満ちたものだという声を上げている。経済学者の主張は、利害が異なる階層や集団の間の主張のぶつけ合いで、ムーブメント(運動)であるということを知っておいた方がいい。