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会長の読書

コンビニ人間 (村田沙耶香著、文藝春秋)

  今年の芥川賞受賞作品「コンビニ人間」。「コンビニ人間」と言う表題だけで、現代社会のナニかを想像させ、思わず手にとって見たくなる。

 主人公の古倉恵子は、子供のころから変わった子供であった。幼稚園で、死んだ小鳥を見つけ、みんなでかわいそうだからお墓を作ってあげようとしていたところ、恵子は「せっかく死んでいるのだから」と焼き鳥にして食べようと言い出す。小学校の頃は、男子生徒が取っ組み合いのけんかをしているところで、「誰か止めて!」の声に、恵子はスコップを持ち出し男子生徒の頭を殴った。

 どこか変わった、“世間の常識”から外れたおかしなところ。家族はこの変わったところを何とか「治す」ように努力をする。

 古倉恵子が大学生1年生のとき、近所にオープンしたコンビニのアルバイトになる。店員としての訓練を経て、どんどん適応していく、訓練されたことは忠実に実行でき、いいなと思った人のことは真似ができる。スキのないコンビニ店員と成長し、まさにコンビニ人間となる。朝昼晩とコンビニ食品を食べ、寝ても覚めてもコンビニのことを考える。

 そのままアルバイトを続け、いまや36歳になる。結婚もしていない。友人たちは「結婚か就職をして社会と接続」しているが、彼女は両方ともしていない。友人たちからは白い目で見られるのだが、彼女はそれがなぜだか理解できない。

 結婚して子供もいる妹が時折会いに来るのだが、やはり「治って」いないと心配される。

 その後、いろいろと経緯があって、一度はコンビニ店員を辞めるのだが、コンビニに戻るしかないと悟り「私はコンビニ店員という動物なんです」と古倉恵子は言う。そして、彼女が幸せになるか、それは分からない。

 コンビニの風景の描写がおもしろい。客がパンの袋を握る音、ペットボトルをとる音で客の動きを察知する。胸のポケットに手をやる人はスイカで支払う。掌やポケットの中で小銭を鳴らしている人は、煙草や新聞をさっと買って帰ろうとしている人が多いなど、観察も細やかである。

 それもそのはず、著者の村田沙耶香は現役のコンビニ店員である。すでに野間文芸新人賞、三島由紀夫賞を受賞するなど、十分に力のある作家であるにも関わらず、今でも週に3日アルバイトに行っているそうである。受賞者インタビューでの「今後もコンビニバイトを続けるか」と言う問いに「店長に相談します」と答えている。

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