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会長の読書

明治維新という過ち - 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト - (原田伊織著、毎日ワンズ)

  多くの人達は、明治維新のお陰で、日本は欧米列強の植民地にされることを免れ、アジアの中でいち早く近代国家になりえたのだと思っている。特に、司馬遼太郎ファンは、明治維新は日本の歴史における輝かしい革新だったと信じている。

 本書の表題は、この常識に挑戦状を突きつけたようなものである。書店で手に取ってみた。

 明治維新の思想的背景は水戸学の尊王攘夷であると言うのは定説である。本書では、水戸学に触発された吉田松陰が松下村塾で更に過激な内容を塾生に伝え、多くの塾生が明治維新の志士となり、激しいテロ活動を始めたとしている。志士たちがやったことは、司馬遼太郎などによって美化されているが、現代の視点から見れば過激なテロ行為に他ならないと、著者は決めつけている。確かに、土佐勤王党、水戸の脱藩浪士、松下村塾の過激分子などの勤皇派と新撰組や会津の京都守護職などの佐幕派とが、京都を舞台に毎晩のように斬り合いを演じていた。司馬の小説「人斬り以蔵」を読むと、土佐勤王党の岡田以蔵は自分の意見よりも仲間の話を聞いて、開国論者などを斬りに行くという、単なる暗殺者だったようである。一歩退いてみると、確かに野蛮な殺し合いであったことは分かる。昭和の時代まで、子供たちは勤皇と佐幕に分かれてチャンバラごっこをし、斬りつける時には「天誅!」と叫んでおもちゃの刀を振り下ろしたものである。このように後世までも語り草となるほど激しいものだったのだろう。

 維新の志士たちは、尊王攘夷を唱えていたが、著者は方便にすぎなかったとしている。確かに、久坂玄瑞は尊王どころか御所を砲撃した稀有な日本人であるし、倒幕した後、攘夷をするどころか逆に西洋文明を大々的に取り入れた。革命時には方便は必要悪とも言える。その結果、明治維新は植民地化を免れ、早期に近代化に成功したのであるから、あながち過ちであったとは言い切れないと思う。

 しかし、著者は松下村塾の実態はテロリストの集まりのようなモノであり、後年、山県有朋らによって美化された、作られた歴史であると主張している。本書の後半は、会津を攻撃した長州・薩摩などの軍がいかに残忍で、有為の人材を失うことになったかなどに紙面を費やしている。

 維新が過ちであったと言うのなら、ひとつ思い当たることがある。日本は軍備を整えアジアに進出し、蒙を啓き盟主になろうと、気宇壮大と言うより、司馬流に夜郎自大的な考えを吹きまくっていた吉田松陰に影響された山県有朋が後に陸軍大臣になり、帝国陸軍の暴走を招いたと考えれば、維新の中核松下村塾に過ちの源があったと考えることができる。

 著者の原田伊織は、相当詳しく調べ上げている。続編の「官賊と幕臣たち」を読むと、暗殺事件リストが載っているなど、当作品には書き切れなかったことも述べられていて、原田は豊富な材料をもって、明治維新を論じていることがうかがえる。

 司馬遼太郎史観を信奉する人も、一読する価値がある。

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