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会長の読書

(東山彰良著、講談社)

 今年7月に直木賞と芥川賞の受賞者が発表され、芥川賞を受賞した芸人作家又吉直樹の作品「火花」が大きな話題となっている。その陰に隠れているようだが、この「流」もかなりレベルの高い作品のようである。北方謙三は「20年に一度の傑作、とんでもない商売敵を選んでしまった」と言うほど凄い作品と評価している。

 読んでみると、確かに構成がしっかりしていて、かと言って複雑過ぎない。前半に多くの伏線がちりばめられていて、よく組み立てられている。

 蒋介石が亡くなった時に、主人公の葉秋生の祖父が殺されるところから物語が始まる。背景には、中国共産党の軍に敗れて台湾に渡って来た蒋介石の国民党などの外省人と台湾に土着していた本省人とが入り混じる複雑な台湾社会がある。主人公は成長するに従って、大学に進学するか兵役に就くか悩む中、友人との確執、またやくざグループとの喧嘩などを描いているが、戦後の台湾社会がどのような状況であったかが良く分かる。外省人は中国本土に残されている親せきとの手紙は、日本など第三国を介して出さないとやりとできないこと、日本の製品などが少しずつ入ってきていることなど、生活感の中で生き生きと語られていることは、知らなかった台湾事情に目を開かされる。

 ゴキブリが大量発生し、日本から持ってきたゴキブリホイホイで捕獲したら、箱いっぱいになり、箱から足が生えたようになり箱が走り出したと、嘘か本当か分からないようなことが書かれている。日本からのお土産の模様入りのパンツをしゃれたショートパンツと思い穿いて街に出たが、後にそれが下着だったと言うエピソードがあり、やはり日本からの土産とし持ち込まれていたビデオで女子プロレスを見た祖母が日本の女はみんな凶暴だと思いこんでしまい、「後にダンプ松本の登場で祖母の偏見は取り返しのつかないことになる」と書いてある。このようにユーモラスな部分も多くあり、楽しく読める。

 主人公秋生は、様々な手がかりから犯人を突き止めるのだが、それが意外な人物、・・・これは読んでのお楽しみ。

 著者は1986年台湾で生まれ、幼年時代を台北で過ごし、9歳の時に日本に移住。2003年に作家デビューし大藪春彦賞を受賞している。日本語についてはネイティブではないのだろうが、十分な語彙があり日本的言い回しも巧みである。北方謙三が言う通り、凄い作家に育って行くものと期待できる。

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