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会長の読書

小室直樹 日本人のための経済原論 (小室直樹著、東洋経済新報社)

 近頃、(なおき)が流行っている。芥川賞を受賞した芸人作家が又吉直樹(なおき)、ちょっと前の話題は半沢直樹(なおき)、また百田尚樹(なおき)。そこで、というわけではないが、今回は小室直樹(なおき) を取り上げてみた。

 相当分厚い本である。720頁もあり、ピケティの「21世紀の資本」より厚い。しかし、非常に読み易く面白い。

 第Ⅰ部は、日本の経済社会は特殊で、本当の資本主義ではないと言う小室の主張が述べられている。また、日本の役人が経済学を理解しておらずパイロットのいない飛行機のようであるとし、だからこそ読者個々人が経済学を真に理解してほしいと説いている。と、ここまでで約半分、第Ⅱ部からいよいよ経済学の解説になる。

 最初に、Y=C+I(国民総生産=消費+投資)が分かれば経済学の極意に迫ると書いてあるが、そうとうに大袈裟。消費の増加、物価の上昇など経済の変化はスパイラル状に動くと説明している。続いて、誰でも知っている需要曲線と供給曲線とその均衡という現象について解説。そして、ケインズの乗数理論になるのだが、乗数理論が解れば経済学の真髄を覚ったと言えると、またも大袈裟なもの言いとなっている。スパイラルな変化と乗数的な波及現象があるということを理解すれば、多くの経済現象を理解できるのは確かだと思う。

 乗数理論は、社会の経済主体が得た収入を一定の貯蓄を手元に残し支出する。その支出を受けた次の人も一定の貯蓄をし支出する。これが次々と続くことで社会全体に波及することを数式で表した理論である。

 S=a+ar+ar2+ar3・・・+arn-1

 この数式を変形すると、S=a/(1-r)となるのだが、小室はまるで数学の先生のように解説していて、よく理解できる。

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S:国民所得の増加分、 a:追加投資、

r:限界消費性向(増加所得を消費する比率)、 (1-r):限界貯蓄性向

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 経済学はアダム・スミス、マルクス、アルフレッド・マーシャル、ケインズ、フリードマン、クルーグマン、スティグリッツを経て、そうとう進歩したのは確かである。その間にかなり激しい論争があり、マネタリストたちが「ケインズは死んだ」と言ったことは有名である。そして、その結果、小室は経済学が科学に昇華したと書いている。

 文科系学問の内で、経済学が最も科学的手法を取り入れ、最も科学的であるとは言えるが、小室も本書で述べているが経済は実験できず再現できないものである。再現性のないものは純粋科学ではないし、相変わらず経済学者同士の主張のぶつけ合いが続いていることは、あまり科学的ではないように思える。

 経済学が科学であるかどうかはさておき、本書はある程度経済学をかじった人には、分かり易く面白い本である。

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