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会長の読書

沈みゆく大国 アメリカ (堤未果著、集英社新書)

 堤未果の前著書「 ルポ 貧困大国アメリカ」は信じられないようなアメリカの貧困の根深さを紹介し、衝撃を与えた。本書も、アメリカの医療の問題をセンセーショナルに描いている。

 もともと、アメリカは国民皆保険ではなく、多くの保険を持たない人たちが医療を受けられないという問題が指摘されていた。医者にかかれない人はドラッグストアーに頼り、いわゆるセルフメディケーションが大流行りしている、盲腸になり入院手術となると500万円もかかり一挙に貧困層に転落してしまうことなどが語られていた。

 民主党のオバマ大統領は、日本のように国民皆保険にすると唱え、医療保険制度の改革を行った。このいわゆるオバマケアによって多くの人が保険に加入できるようになったのは事実と言っていいだろう。しかし、この変化に乗じて、保険会社が自社の有利になるように保険を再設計し、多くの人たちが余分な負担を強いられということが起こっている。オバマケアでは、既往症を理由に保険の加入を断ることが禁止されているため、保険は多くの疾病をカバーしなければならず、その分、保険料が高くなった。このため、消費者は罹るはずもない病気の保証費用も負担することになってしまった。ある53歳の主婦は、今後必要ないと思われる薬物中毒や妊娠のケアも含んだ保険を買わされることになった。また、保険会社はクスリを7つに区分しそれぞれ負担率を設定、高いクスリほど患者の負担率を上げた。このため、HIV陽性でも加入できるようになったが、高額なクスリ代を負担しなければならなくなってしまった。中には一粒10万円というクスリもあるということである。

 余談だが、以前に証券会社からアメリカの高収益のクスリメーカー某社の株を買わないかと薦められたことがある。結局、株は買わなかったのだが、その会社の名前が本書に記されていて驚いた。一粒10万円のクスリを売っている会社である。

 医者はというと、複雑化した保険請求の書類作成に忙殺されるようになり、おまけに患者からの訴訟も増えている。今や、医者は割に合わない職業になってしまったと言う。

 オバマケアの制度設計が、非常にずさんだったか、意図的に仕組まれたのか、結局、儲けているのは保険会社とクスリメーカーで、割を食っているのが患者と医者という結果となっている。さらに、労働組合も組合員に有利な団体保険を提供できなくなり、組合員数が減り始め、存在意義が薄れつつあると言うことも本書に記されている。

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