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会長の読書

資本主義の終焉と歴史の危機 (水野和夫著、集英社新書)

 近頃、資本主義の限界を唱える著作物が多くなってきている。金融資本主義やグローバル化によって拡大している貧富の格差が限界を迎えるとする論調が多い。中には、中国発の巨大バブル崩壊が混乱を招くという主張もある。本書は、資本主義は成長空間を前提にした経済システムで、現代においてはもはや成長空間がなくなりつつあるため資本主義の前提が崩れ始めているという論旨が軸となっている。

 大航海時代の新大陸そして植民地、発展途上国という成長空間があり、それに向かって資本主義国家は成長を持続させてきた。このように資本主義経済の周辺には常に成長空間があったのだが、今や新大陸はなく、発展途上国は新興国となり、成長空間とは言えなくなってきた。限界が見えてくる中、アメリカでは「ITと金融」という成長空間を見出して成長を維持したという見解を披瀝している。

 しかし、「ITと金融」は分野への投資はバブルを生み出すことになった。今後も限界を迎えた資本主義がさらなる成長を求めると、バブルを生じさせることになる。著者は、バブルは資本主義の限界を覆い隠そうとする現象であると指摘している。そして、バブルが発生する都度、貧富の格差が拡大し、社会不安が増大する。

 「会社は株主のものだ」などと言われ始めた2000年初頭、投資家は企業に成長を一層強く求めるようになった。投資家は企業に時価総額の極大化を要求、また、グローバルスタンダードと称して時価会計を広め、資産の将来価値までも組み入れさせ、より多くの見返りを求めるようになった。いわゆる強欲資本主義と言われる風潮が顕著になってきている。

 成長余地空間がなくなり、もはや投資すべき分野がないということは、金利の低下へとつながる。日本では長期にわたりゼロ金利状態となっている。そして、アメリカも欧州も金利の低下が顕著となってきた。ゼロ金利というのは経済制度末期の現象である。

 また、成長余地がない中で企業価値を高めるよう要求されると、給与所得の圧縮が始まる。企業の利益増に対して給与所得の増加の比率は、1999年までほぼ並行して推移していたものが、急速に乖離が始まった。日本ではアベノミクスまで14年間も給与所得の低減が続いた。

 では、資本主義が終わった後、次にどのようなシステムを作るべきなのかは著者自身にも分からないとしている。だが、国境を越えた金融取引に課税し、徴収した税金は食料危機などが起きている地域に還元するべきだとも記している。では、そういうことができるかと言えば、国家がグローバル資本主義を制御できない現在、かなり困難と言わざるを得ない。

 多くの資本主義限界論の中では納得させる表現が多く、ご一読をお勧めしたい。

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