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会長の読書

写楽 閉じた国の幻 (島田荘司著、新潮文庫)

 島田荘司は、江戸川乱歩、横溝正史などのいわゆる本格派推理小説家の一人である。代表作「占星術殺人事件」など多くの推理小説を発表しているが、本書は歴史上の謎「写楽」がテーマとなっている。通常、本格派といわれる作家は、本格派以外の作品を発表することはあまりない。高木彬光が「邪馬台国の秘密」を著すなど、ないわけではないのだが、数は少ない。

 謎に満ちた浮世絵師「写楽」をテーマにした小説は多い。中でも、高橋克彦の「写楽殺人事件」は読んだ人も多いのでないだろうか。高橋克彦は、他に「北斎殺人事件」、「広重殺人事件」など浮世絵に関する小説を書いている。高橋はホラー、ミステリーなどを書く非常に幅が広く、いわゆる本格派推理小説家ではない。高橋克彦は、浮世絵の研究を専門的にしていたため、浮世絵好きに広く読まれている。

 さて、写楽は突然現れて突然消えた浮世絵師である。普通の浮世絵師は、長い修行と下積みの時期を経てデビューするのであるが、写楽にはそれがない。ある日、いきなり大手版元蔦屋が取り上げ、大々的に広める。しかも、売れっ子絵師にのみ施す雲母(キラ)刷りという技法を用いているなど、多くの謎がある。

 写楽の正体は、能役者の斎藤十郎兵衛ではないかというのが有力であるが、その他に喜多川歌麿あるいは葛飾北斎が写楽の名で作品を一時期制作したのではないかという説もある。なかには、円山応挙ではないかと言う説まである。 写楽の浮世絵は、通常は描かない歌舞伎役者の醜いところも書き写していることと、無名の脇役の絵も描いていること、また、歌舞伎を驚きの目をもって見ているように思われることなどに、島田荘司は着目して、写楽は歌舞伎をあまり見ていない人物なのではないかと言う着想を得て物語を展開している。

 小説の主人公は浮世絵の研究家で、子供が事故で亡くなり、妻とも離婚するという苦境の中で、写楽の仮説の検証を進める。有能な協力者がいて、多くの資料を探し出し、論証を固めていく。本書は雑誌に連載されたものであるため、書きながら論証を固めていくという、少々無理と言うか綱渡り的な展開をしているようだ。そのため、全体の構成が若干ぎくしゃくしている。せっかくのユニークな新説であるため、全面的に書き直した方が後世に残るのではないだろうか。

 しかし、独創的な写楽論であるため、写楽好きには興味深く読める内容である。

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