5-2 小売業としてのあり方

 小売業は消費者のニーズに応えるように経営することが一般的に求められている。それはしかし、一方的に消費者(それも個人)に対してのみ応えるのかというと少し違ってきている。先述の環境問題がその代表例で、小売業によっては過剰な包装を嫌うこともあるし、石油資源やパルプなどの浪費も避けて欲しいと思いはじめている。流通業のシステム化もこれに準じているのではないかと考える。それはたとえば折りたたみ式コンテナ(以下オリコン)の活用がある。これは中間流通で用意され、その中に商品が入れられ配送される。店頭での陳列がすぐにできない場合にはそのオリコンは店舗に預けられ、次回配送の際に引き取ることになる。その分手間が増え、コストが小売価格に上乗せされたとしても、消費者が支持してくれる時代になって来た。これがメーカーから卸売業そして小売業まで一環して使えれば、バラ配送であっても年間数億ケース分のダンボールが削減できるのだということを考えたい。さらにこのオリコンが全面的に使われれば物流コストも実際には下げられるのである。ところが小売業にも卸売業にも逆に「コスト上昇」を理由としてオリコンを使わない企業が多くある。他にパレットやEDI、SCMラベル、ITFコードなど一部の企業でしか使われていないものは沢山ある。
 そうしたことは最も安いコストで物流システムを運用して欲しいと小売業が思っていてもその方向になかなか行ききれない要因であり、まことに矛盾しているともいえる。また、一方で小売業は流通業の中でリーダーの役割を果たしている。小売業が望むことを卸売業やメーカーは懸命に応えようとしている。そして先程の消費者の原理と同様に小売業が少し理解するだけで全体最適につながることが多い。
 しかし、多くの小売業は昨今の全体最適指向の(全体としての)消費者とは異なり、まだ個としての存在であることが多い。一部の有力な小売業の集まりの中で行われている勉強会の報告を聞くと、値札の統一、伝票処理方式の統一などの内容があった。これらはグループとして社会全体の最適化を目指しているものでサプライチェーンの観点で (これが全体をとりまとめるきっかけになるのであれば)正しい方向の報告であったといえる。このことから小売業も大いに全体最適に向けて変化して来たのだと認識できる。諸外国にも負けない流通システムが実現できるのか?これからはそうしたことがテーマとなろう。


5-3 卸売業・メーカーのあり方

 卸売業やメーカーは最適な物流システムをいつでも組みたいと考えているのか?小売業からすると疑わしくなる。小売業が最先端のシステムを開発すると(社数でいう)ほとんどの卸売業やメーカーは対応できない。これが率直な意見であろう。卸売業やメーカーは小売業からの要求があまりにもまちまちで異なるため、とても全てにひとつひとつ応えていくわけに行かず、何もできない場合がある。また利益が薄い企業も多く、物流などの莫大な投資ができないことも多い。こうした企業が「遅れている企業」と呼ばれるが、喜んで遅れた企業になろうとしていることはないのである。
 卸売業やメーカーはこうした現実をふまえ、標準化やシステムの高度化に精進し、そして物流の効率化と共に小売業のニーズを満足させるようにすべきであろう。