4-2 留意点


 業界サプライチェーン・モデルは、業界全体の物流を扱い、数式で表現しなくてはならないため、かなり大胆に単純化されている側面がある。そこで、モデルを解釈するときには以下の点に留意されたい。

物流機能のみに着目

 業界サプライチェーン・モデルは、物流の機能のみを扱っている。例えば、中間物流拠点は、全国の生産地から運ばれてくるケース単位の商品をとりまとめ、需要にあわせてバラ単位に加工し、店舗別に仕分けし、需要の変動を緩衝するために在庫をもつという機能をもつことが規定されているのみで、誰がどのようにして、これらの機能を果たすべきかには触れていない。現実には、卸の物流センターや小売の配送センター、メーカーの物流拠点など複数の主体がこれらの機能を分担している場合が多いであろう。同じ機能を果たすならば、どの主体によって運営されてもモデルの上では等価である。
 
既存資源を活用するのか、新規の投資が必要なのかについては考慮しない

 本モデルは、物流量や配送エリア、輸送距離に相関する変動費のみを取り扱い、使用する設備等が既に投資済みであるか、新たに投資が必要かの区別はおこなっていない。
 物流構造を実践する上では、既存の設備や人員の活用、新規投資の決定などは重要なファクターであり、モデルによって理想像がわかっても現実にとれる意思決定は限られてくるであろう。しかし、本モデルは、制約のある中にもどの方向にすすむべきかを示すことを目指している。

小売業者の個別の要求への対応は考慮していない

 カテゴリー納品、売り場別納品、独自のバーコードの添付、定時納品、値札つけなど、大規模な小売業者は中間流通に対してさまざまな個別の要求をおこなう傾向が顕著である。小売業者の個別の要求に対応するために、卸業者が特定小売チェーンのための専用物流センターを設置するようなこともおこなわれている。
本モデルでは、業界全体を扱うために、小売業者の個別の要求への対応は考慮していない。小売業者の個別のさまざまな要求にどのように対処していくべきかは、本報告書の別冊で論じられているので、そちらを参照していただきたい。

4-3 ビジョンの構築にむけて


 サプライチェーンは、さまざまな機能を果たす複数の主体が関わり合うという性質を持つため、その構造を改革するためには利害調整に非常に手間がかかるのが通常である。サプライチェーン全体として、多少非効率があっても許される状況であれば、商慣行やパワー関係で利害の不一致を調整することもできる。しかし、サプライチェーン全体のコストを低減することが求められている今日では、メーカー、卸、小売、物流業者などがそれぞれの立場で、生き残りをかけ活発に競争しながらも、業界全体を見渡す広い視野をもち、互いに利益になる部分は協力しなくてはならない。そのためには、業界全体がビジョンを共有することが有効な手段となる。
 業界サプライチェーン・モデルは、非常に粗く、完全とはいいがたいが、ビジョン構築の何かしらの助けになることを願ってやまない。

以上 




第2部 地域集約物流プラットフォームモデル