まえがき

 最近の日本経済は、相変わらず低迷を続けています。消費税が5%になり、特別減税がなくなり、医療保険が増額され、おまけに超低金利によって、消費が冷え込んでしまいました。このため、小売店価格は低迷し、流通業の業績は後退を続けています。また、ビックバンを控えた銀行は、超低金利であるにもかかわらず、貸し渋りに転じ、中小企業の経営を圧迫しています。
 もう、これは日本経済の単なる不況ではなく、日本の社会全体の構造改革が必要な事態だと考えられますが、政府の行政改革は、遅々として進まず、ますます先行き不安が広がっています。
 こうなったら他人の力を頼まず、自ら変わっていくしかありません。そこで、プラネットでは昨年来、業界としての合理的な改革案策定を目指して、業界サプライチェーン研究会を開催し、検討を続けていまいりました。そして、ここにその成果をまとめて、「業界サプライチェーン研究会報告書(VOES)」として、業界の皆様にご報告する運びとなりました。

 さて、言うまでもなく、われわれ業界は消費者に良質の商品を安く過不足なく供給するのが社会的責任です。本書では、その社会的責任を全うするための業界の流通構造の理想型を描いています。具体的には、業界メーカーが製造する商品4億ケース(段ボール)を30万軒の小売店に、過不足なく供給するにはどのような体制が最適であるかを策定しました。そして、変貌を遂げている小売店の満足を得るために、業界フルラインの一括物流でバラ配送もでき、ノー検品も可能な高精度なシステムであるという条件を設定しました。
 こうした目標と条件のもとにシミュレーションを行ったところ、200~250億円規模の物流拠点を日本列島に114カ所開設すれば、業界としての供給責任を果たせるという結果が算出されました。
 現状の中間物流拠点は、業界に関わる卸店と販社数を2千社とすれば、2千数百カ所はあると考えられます。これは、かつては業種別小売店が数多く存在していたことと、メーカーの特約店制度、テリトリー制度、販社政策などによって、中間流通が縦割りに細分化されてきたためと考えられます。しかし今日、小売店の業態変化が急速に進み、(業界一括品揃で、バラで、高精度で、指定時間で)高度な物流サービスをすることを求めるようになってきています。この要求に応えないでいると、小売店やサードパーティーロジスティックスと呼ばれる物流業者などの進出を招き、ますます先行き不透明な状況になりかねません。
 こうした変化を遂げつつある小売店に対して、業界の商品を最適に供給する理想型が114カ所の拠点というわけです。言うなれば、業界ビジョンを描いたもので、仮に実現するとしても数十年先になるものと思われます。というより、むしろこの通りにはならない可能性の方が大きいでしょう。流通業者の知恵で多くのニッチサービスが生まれ、新種の中間流通業者が台頭してくることもあり得るし、まったく異なった物流ニーズを持った新小売業態が出現するかも知れないからです。
 では、なぜ本書でこのような理想型を提示したかと言いますと、来世紀にさまざまな業界の構造変化を迎える際に、ひとつの指針として参考にして頂くためです。具体的に言いますと、合併、提携、新物流センターの建設、小売チェーンの一括物流の運営受託などの意思決定をする時に、議論をしたり考察をする拠り所にして頂くためです。
 かつて、プラネットは、業界のEDIの完成図として「トータルEDI概要書」を提示しました。また、「次期ネットワーク構想(業界イントラネット)」も公表していますし、全卸連と共同で「小売業・卸売業間EDI概要書(WES)」も提案しています。こうした未来の理想像を明示することにより、業界発展の道筋がわかり、業界全体で長期的展望を共有化できます。ビジョンがある業界とない業界とでは、大きな違いがあるのではないでしょうか。ぜひ、今後も業界共通のノウハウとして大切にして頂きたいと思います。
 本書は、業界の中間流通業の構造改革を描いているわけですから、基本的には卸店が自らやることで、メーカーの及ぶところではありません。メーカーはそれに協力するというのが望ましいと思います。プラネットも、このビジョンに一歩でも近付こうという努力に対して、支援したいと思います。
 プラネットができることは、ご相談にのることと、データ通信システムの開発についてお手伝いさせていただくことです。では、プラネットはどのような立場かと申しますと、言うなれば「業界研究所」の様なものであると申し上げれば分かり易いかと思います。業界的立場でこうした指針を提供し、後はコンサルティングをするだけです。ただし、データ通信については業界の標準化が不可欠ですので、その部分については具体的に手掛けて行きたいと考えております。
 そのための体制として、サプライチェーン推進室を設けておりますので、お問い合わせ下さい。
 なお、以上のような理想型ばかりでなく、現実には今日の業界のサービス体制では満足していない小売店からの要望で、一括物流センターの運営を受託する卸店も多いと考えられます。そこで、プラネットでは、一括物流センター運営のマニュアルを策定し、本書の別冊として用意いたしました。必要な方は、プラネットのサプライチェーン推進室までご請求下さい。

                       1998年1月吉日     

株式会社プラネット    

取締役社長 玉生 弘昌