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プラネットユーザー会 2017

広がりはじめた機械学習

最首 英裕氏
株式会社グルーヴノーツ
代表取締役社長

ビジネスや社会を変えると言われ、今注目されている「機械学習」。それは一体、どのようなもので、どのような効果があるのか。この新しい技術を、より多くの企業が手軽に利用できるよう、最前線で普及に取り組んでいる株式会社グルーヴノーツ代表取締役社長の最首 英裕(さいしゅ えいひろ)氏にご講演いただいた。

*本稿は2017年11月に行われたプラネットユーザー会2017における基調講演の内容を『PLANET vanvan』 編集部で要約したものです。

(PLANET vanvan 2018年冬号(Vol.117)掲載記事より)

機械学習はベテラン社員の勘を再現する

 私たちグルーヴノーツは、機械学習のクラウドプラットフォーム「MAGELLAN BLOCKS」(以下「当プラットフォーム」と表記)を提供している。専門家がいなくても、プログラムをつくらなくても、誰でも簡単に機械学習という技術が使えるサービスだ。
 AIと機械学習は、何が違うのか。AI(Artificial Intelligence)は一般に「人工知能」と訳されるが、Artificialには、見せかけの、わざとらしい、という意味もある。つまりAIは知能ではなく、「知能っぽいもの」の総称であり、非常に幅が広い。その中で私たちが提供しているのは、機械学習、深層学習という仕組みだ。
 この仕組みは、人間の経験や勘を再現するのに利用することもできる。たとえばある商品の販売に、どのような要素が影響を与えているのか。曜日、月、気温、価格などの要因がどのように組み合わされていくと、どういう数値になるのかを自力で見抜いていく。
 もともとの発想は、脳の処理の仕方を模倣するところからはじまった。過去のデータを見せることで、そこにある特徴を見つけ出し、その結果、経験したことのないことに対しても答えが出せるようになる。
 こうした方法で一番大切なことは、結果に影響のある要因をいかに見つけるかだ。商品が何個売れるかを考えるには、まずその商品がなぜ売れるのかを考えなければいけない。実店舗であれば、人が家を出て、店に立ち寄り、その商品を選択するという行動全体を捉えることが肝要だ。面白いことに、一人の人の行動を予測するのはとても難しいが、5千人、1万人と数が多くなると、その傾向は予測しやすくなる。大勢の層を対象にすると、個々の特徴が平準化し、一定の似たような特徴を示すのだ。
 例えばある店で、午後に雨が降ると売れ行きが落ちる傾向があった。そこで降水量を因子として入れてみたが、それほどの予測精度は出なかった。次に陽光が影響していないかと考え、日照時間を入れてみたところ、精度が非常に上がった。雨が降ると外出する人が減るのは容易に想像がつくが、実は人は曇りでもあまり出かけないのかもしれないということが、ここから推察できるわけだ。こういうことをデータ化していくと面白い発見が生まれる。


数値予測から画像、音声解析まで

 当プラットフォームは、いろいろな機械学習モデルに対応している。ここでいくつかご紹介したい。
<数値回帰>
 過去のデータをもとに、与えられた条件下での「数値」を予測する。電力消費量予測、小売店の販売数予測、商業施設の来場者数予測、コールセンターの入電数予測、株価予測など、さまざまな場面で応用が始まっている。
<数値分類>
 数値分類は、与えられたデータの特徴を見て、対象がどの「分類」に当てはまるかを予測する。ダイレクトメールの成約率、製造ラインにおける異常検知や点検業務、農産物の仕分けなどに活用されている。
<画像解析>
 画像に写っている物を見分け、商品のキズや生産ラインの異常を発見したり、生花のランク判定に活用したりしている事例もある。さらに、画像に写り込む複数の異なる物を判断する「物体検知」というモデルもある。本来、深層学習には大量のデータが必要とされるが、当プラットフォームでは、一般的な物については事前に画像を大量に学習させてあるため、少ないデータを追加するだけで高い精度が出せるのが特徴だ。
<音声解析>
 音声解析はかなり精度が上がってきており、キーボードに触れなくてもコンピュータが使えるようになる。私たちのサービスでは、Google Home(Google社製スマートスピーカー)とPepper(ソフトバンク社製ロボット)と当プラットフォームを組み合わせ、Pepperに話しかけると、当プラットフォームが音声をテキストに翻訳して意味を解釈し、需要予測の結果を音声で返すといった取り組みなどを行っている。ロボット技術も日々進歩しており、店舗のデータベースや社内システムなどと連携させて、今後いろいろな展開ができると考えている。
<自然言語分類>
 会話やメール、ドキュメント等をベクトル化すると、ベクトル空間(数学的構造)上で距離が近いものは極めて似た意味を表現していることになる。これを使うと、非常に高速に文章を探せるため、現在、商品問い合わせなどに実際に使われ始めている。


機械学習がもたらす新しい時代

 ご紹介した機械学習のモデルは、すべて私たちが開発したものだ。ただし、私たちは仕組みを提供し、使い方を説明しただけで、実務で使える機械学習の仕組みは、すべてユーザー企業自らが行っている。自分たちで因子を考え、データを集めて、予測精度を上げているのだ。通常、外部の専門家にシステムをつくってもらうと、中身はブラックボックスになっていてわからない。しかし当プラットフォームを使えば、知見を会社に蓄えることができる。また、外部に何をやっているか伝える必要がないので秘密も保持される。
 私たちのサービスの中で、今後最も期待しているのは、教師データがいらない「強化学習」だ。例えば、ブロック崩しのゲームをコンピュータにやらせてみるとする。目標は高い点数を取ることで、必ず打ち返す、カーソルの位置を動かすという条件だけ与える。何も分からない状態から始めて、最初は本当に下手だが、何時間かするとコンピュータは、打ち返した球が上の空間に入れば大量にブロックが崩せることに気がつく。すると端ばかり狙うようになり、一気に上達して高得点を取れるようになるのだ。囲碁プログラム「アルファ碁」に使われたのも強化学習の手法だ。最近はこの強化学習の仕組みを、業務に適用する会社も出てきている。
 機械学習とは、決して知能ではなく、ナイーブな問題を解く関数を作るという作業だ。過去の経験をもとに、コンピュータが特徴を見つけ出して関数を導き出す。すると、経験したことのないことに対して答えを出せるようになる。さらに進んだ領域では、データがなくてもコンピュータが自律的に学習して、答えを出すこともできるようになってきている。
 もちろん、どんなことにも機械学習が適用できるわけではないが、さまざまな技術をうまく組み合わせていけば、今まで人間が頑張らなければいけなかったことを、機械が簡単にやってくれるようになる。音声を認識させる精度は飛躍的に伸びており、コンピュータに言葉で指示をすることも可能になってきた。文章を数学的に処理することで、意味が近いものを簡単に探すこともできるようになってきた。数値だけでなく画像も、音声も処理できるようになり、取り組みの可能性がこれから大きく広がっていくのは間違いない。
 機械学習だ、人工知能だと、難しいもののように捉えがちだが、やってみると意外と身近なところから、すぐに効果を実感できるはずだ。そして一つやり方がわかると、次々と具体的な適用イメージも湧いてくるだろう。世の中のほとんどの人は、まだ機械学習という新しい技術に十分取り組めていないと感じる。当プラットフォームのような仕組みを使えば、簡単に始められて初期コストもかからない。まずは一歩、階段を上ってみることを強くお勧めする。