消費財流通業のグローバル展開
- タイ・バンコク共同受注センター活用事例(前編)
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荒木協和さん
Sunster Group
経営統括本部 理事
ロジスティクス担当
今回は、タイ・バンコクの共同受注センターを活用したBPO(※)により成果を上げている事例を、前後編に分けてご紹介する。
※Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソーシング) 企業運営上の業務やビジネスプロセスを専門企業に外部 委託することを指す。略してBPOともいう。
(PLANET vanvan 2017年夏号(Vol.115)掲載記事より)
“海外”へ目を向けなければいけない時代
従来、事業のグローバル展開というのは、体力のある大企業に限られた話だったかもしれない。しかし、これからは中小企業であっても、その可能性を視野に入れなければならなくなってくるだろう。日本は今、かつてない少子高齢化時代を迎えており、若い労働人口の減少により、さまざまな業界で人材不足が深刻な問題となっている。また、人口減で国内市場が確実に縮小していくため、多くの企業は海外市場に新たな活路を見出すほかないと思われる。
一方、海外への進出となると、国内で事業を展開するのとは異なった課題が多い。言語の違いや商習慣の違いは、投資コストと並んで大きな障壁となる。また、どの国にどのような特徴があり、どこに進出するのが最適かをリサーチするのも、予備知識がなければ難しい。さらに、海外市場への販路拡大を目指すのか、製造機能を移転するのか、あるいは一部業務をアウトソースするのか、海外展開の目的や形態も企業ごとに異なってくる。
今回ご紹介するのは、BPOサービスを導入して、国内で行っていたFAX受注業務を、バンコクにある共同受注センターに移管した事例である。この取り組みについて、SunstarGroup経営統括本部の荒木協和理事に話を伺った。
派遣法改正をきっかけにBPOを検討
BPOに取り組むきっかけは何だったのか。それまで、FAXで届く非EDIの受注処理は、社員と派遣社員により自社で行っていた。だが、「労働者派遣法の改正や労働力不足などで、派遣社員の雇用形態が変わり、安定した業務の継続が困難となってきました」と荒木さんは言う。
「受注業務は波動が大きいため、ある程度は派遣社員を活用しないと対応できません。そしてFAXや電話などEDI以外の受注は、お客様の特性など熟練性が必要とされます。しかし派遣社員の雇用期間が3年以内となると、定期的な人材の入れ替えが難しいだけでなく、新人教育に大きな負担が生じてきたのです。そこで何か良い方法がないか、検討を始めました」。
その頃、FAXの画像データを切り分け、項目ごとに入力を行い、再びそのデータを統合するなど、入力業務の海外BPOが流行し始めていた。そこで海外で外国人による受注移管を検討することになったが、
・同社が受け取る注文FAXは定型化されていないため、情報ごとに切り分けるのは難しい。
・また、電話による客先からの問い合わせに、現地の外国人スタッフでは日本のサービスレベルに対し、
十分な対応ができない。
などの問題が判明し、海外BPOは諦めることになった。
そんな時、バンコクで現地の日本人を雇用して、受注業務を請け負うサービスがあることを知った。
「BPOサービスを運営するトランスコスモスさんの話を聞き、実際に受注センターを見学して、これなら実務として成り立つと思いました」(荒木さん)。
ビジネス拠点としてのバンコクの魅力と可能性
バンコク受注センターを運営するトランスコスモス株式会社は、国内54拠点、海外118拠点(2017年5月現在)で事業を展開するITサービス企業だ。その幅広い海外での実績を踏まえ、タイにビジネス拠点を置くメリットについて、同社の常務執行役員でBPOサービス統括副責任者の内村弘幸さんに聞いた。
「タイは公共インフラが充実していて、グローバル展開を目指す企業にとっては進出しやすい国です。とくにバンコクは、縦横に大きな動線があって東アジアのハブになっています。タイ国内には約7,000万人が住んでいて、バンコクだけで考えても大きな経済圏なので、市場としても魅力的です。
また、タイには5万人以上の日本人が長期滞在しているとされています。通常、タイで日本人を雇用する場合、その数倍の人数のタイ人を雇う必要がありますが、当社はタイ国政府から認可を得て、日本国内向けのサービスに関しては、日本人の雇用が認められています。その点もBPOを考える日本企業にとって、大きな利点となると思います」(内村さん)。
後編では、実際にバンコクではどのような環境で仕事をしているのか、現地の受注センター訪問レポートをお届けしたい。
※1 Business Continuity Plan(事業継続計画)災害などの緊急事態が発生した時に、企業が損害を最小限に抑え、
事業の継続や復旧を図るための計画。略して BCPともいう。
※2 あるサーバー内のプログラムやデータ等と同じ内容を、別のサーバー上に構成すること。